【星幽塔】薄闇よりの挑戦状｜リアクション

【星幽塔】薄闇よりの挑戦状

転：それぞれの戦い（２階編）

　――二階

　日暮ねむる達が１階の調査を行っている頃。二階に来ていた八神修と東条あんずは、修が持参していた懐中電灯を手に捜索していた。あんずの相棒、ラフィはあちこちにおいをかいでいるが、未だ反応が無い。
「一応、これやっとくね」
　恵御納夏朝はそういいながら２階を探索しているメンバーにねこシールを貼る。己のろっこん『重く軽く』で体を軽くし、床が抜けるのを防ぐ為だ。
　同じように２階の捜索に来た来島アカリと獅子目悠月、鴻上彰尋もまた、夏朝からシールを貼ってもらい、軽量化をはかる。
　周囲を見渡すと、そこは応接間という雰囲気がある部屋だった。壁にはぼろぼろになったとはいえ立派だったであろうタペストリーが数枚かけられており、本棚が北側に並んでいる。その他にもキャビネットなどがあった。
「埃が凄いね。少しでもこれで調査がはかどるといいけど」
　夏朝は調査前に『星のほうき』もつかって周辺をきれいにする。とタペストリーの一部が捲れた気がした。その奥に揺らめくものを見た新田亮が注意深くそこを見るが、いまいちよく分らない。
　あんずはそんな亮の様子ににぱっ、と笑ってタペストリーを捲る。
「タペストリーの後ろをめくると何かあるって聞いたことあるぞ！　もっとよく見てみるんだ！」
（たしかに何かありそうだな）
　亮は近くにいた悠月に協力を仰ぎ、近くにあったろうそくに火をつけてもらう。そこで漸くオーブの１つを見つけることが出来た。悠月はそれを見るなり真顔で頷く。
「エリオナイトが持っていた物と同じやつだな」
「じゃあ、壊すぞ！」
　亮は１階から持ってきたハンマーを叩き付けた。途端に、オーブに皹が入り派手な音を立てて消えていく。あんずがちょっと悔しそうな声を上げる中、僅かに空気がよくなった気がしながらも悠月はため息混じりに言葉をつむいだ。脳裏に浮かんだのは、第一階層での騒動だった。
「オーブにともっているこの『黒い』火が気になる。実は
先日、フラン嬢が黒影の少女に襲われたんだ。明確な意思を持って『アステリズムを始末する』と言っていたしな」
　亮と夏朝は表情を引き締める。２人は悠月同様、その出来事にかかわっていた。
「エリオナイトにあの影の影響が出ている可能性は、大いにあるな。俺は、彼女に深い負の感情が見えたから、気になっていたんだ」
　彰尋が相槌を打ちながら大きなテーブルを見る。クロスがかかっているそのテーブルは丸く、１０人ぐらいはかるく囲めそうなほどである。
「少なくとも、ここに来た覚えのない俺達を此処へ導けるのは彼女だ。『何らかの関わりがあるはずなの』というステラの話を聞くと始めから敵、という訳でもないんじゃないだろうか」
　テーブルに手をそっと置いて、彰尋はそっと目を細める。……と、金糸による刺繍が目に入った。そこにはうお座の印と、『Pisces』と縫われている。
　修が光源を近づけると解れている部分もあれど、確かに十二星座分標されている。その中にへびつかい座は記されていない。
「もしかして、へびつかい座のアステリズムは存在しないんじゃないのか？」
　ふと脳裏に浮かんだ予感を、修は口にする。彼は２階に来てから道具箱や書類などを調査し、エリオナイトや建物の謎に迫っていた。その過程で、彼もまたへびつかい座の印をみていなかったのだ。
「１階を調査しているメンバーにも聞いてみないといけないが、もしかしたらここはアステリズムにかかわる場所なのかもしれない。十二星座の印が記された物が多数見つかる上、このテーブルクロスに刺繍されている物を見た限りでは、そう判断してもいいと思うんだ」
「それにしては、扱いが……」
　悠月は怪訝そうな顔で言ったものの、すぐに考えを改める。仮にエリオナイトが黒影の影響を受けているのならば、それを取り除けば少なくともこの場所の倒壊だけでも防げるのではないか。そんな事が脳裏をよぎる。
「もっとよく探してみよう！　僕も本棚を調べてみようかな。あっちにも小さいけど四角いテーブルもあったし……」
　夏朝がそういいながら本棚の１つに歩み寄る。亮と修もまた別の棚をあたり、あんずはラフィに引き続き匂いを辿らせることにした。
　悠月は、大きな丸いテーブルを見、ぱちん、と指を鳴らす。
「よっし、そのテーブルの下は来島が調べろ」
「はぁ？！なんで俺がそんなこと……」
　お前に指図された事実が気にくわねーんだけど、とアカリが思わず声を上げる。彼は渋りながらテーブルを見るが、ややあって実にいい笑顔を浮かべ彰尋に言った。
「……よし　鴻上、跪け」
「へっ？！」

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