【体育祭】フリーダム！ネココー流応援合戦～白猫組サイド｜リアクション

【体育祭】フリーダム！ネココー流応援合戦～白猫組サイド

　校門前までくると、走者だけでなく生徒や教職員、一般観衆も陣取って勝負の行方を見守っている。公道の向こうから白黒の応援旗が見えると、歓声が上がった。
　区間３を担当するのは、黒猫組が本田誠也と八神修。対する白猫組は、薄野五月と初島優の二人だ。
誠也が修に言う。
「自分、不器用の自覚あるっすから、しっかり持てるように手汗を止める粉をつけておいたっす」
「その気合、ありがたい。打ち合わせ通り、旗は布が前、いいね」
　古代ギリシア重装歩兵流の持ち方は修の発案だ。旗が垂直だったり布を後ろにしたりすると、布が地面に触れそうになったか見えない、風の影響で左右にぶれやすい、走者の胸が反るため速度が落ちるといったデメリットがあるからだ。

　一方の白猫組ペア。
「黒猫組はいろいろ作戦を立てていますね……」
「大丈夫、区間３はほとんど直線だから、全力ダッシュで行こうー！」
　優が五月を元気づけるように言った。ロベルトと凛の二人はすぐそこまで来ている。優と五月は旗を受け取る体勢に入った。
「次を、頼む！」
「重いから気をつけてね！」
　前の走者から旗を託された二人。優が旗の重みを受け止め、五月がバランスを崩さないよう支える姿勢をつくる。
「せーのっ！」
　呼吸を合わせた二人は、力の限り走り始めた。
（走るのは好きな方ですけれど、でも……いつもより、なんだか楽しいですね！）
　皆で一体になる楽しさを感じていたのだろう、五月の顔には少し微笑みが浮かんでいた。

　ほぼ時を同じくして、黒猫組の応援旗も受け渡された。綿密な練習通り、誠也と修は計算された動きで旗を受け止める。縦一列に並び、修が前、誠也が後ろを持った。ポールをやや前方に傾け、風の影響を軽減する。向かい風を突き刺すように進む要領だ。体が上下左右に揺れないよう、重心と体幹を意識する。
（身体能力は理論と練度で覆せる！）
　修の信念とともに、黒猫組の応援旗も走り出す。

　スタートを切った時の思い切りの良さで、白猫組がややリード。しかし、黒猫組も堅実なレース運びで予断を許さない。
「左、大きめの石がありますー！」
「了解ー！」
　前方にしっかり注意を払う五月の声掛けに、優が答える。黒猫組は、パワーのある走者を後半に残している。ちょっとでも差を広げておきたいところだ。二人はお互いの顔を見、頷いて意志を確認した。さらに全力疾走だ―――
　ちょうどその時だった。向かい風が、急に横方向からの風に変わる。虚を突かれた白猫組の旗が傾き、布部分の先が地面をなでた。
　浅井先生のホイッスルが無情に響く。白猫組への声援が、一瞬悲鳴に変わった。
「しまった―――」
　思わず口に出た優の言葉に、今度は五月の方がはっぱをかける。
「仕方ないです、頑張って取り戻しましょう！」

　白猫組に起きたハプニングは、黒猫組走者の二人の目にも入っていた。だが、深く考える余裕はない。僅かに前にいる白猫組を何が何でも抜く、その一心で校内の道を駆け抜けていく。受け渡し地点が見えてきた。
じりじりと白猫組を追い詰め始めた、その刹那。
「―――！」
　誠也が、一瞬足をもつれさせる。
　判断は早かった。誠也が地面に倒れ込んだ時には、彼の手はポールから離れていた。残り僅かな距離は、修が勢いで乗り切る。どちらかが万一転んだ時には、もう片方はためらうことなく全力で走り続ける、という打ち合わせ通りだった。

　肩で息をしながら、誠也はうずくまったまましばらく動けないでいた。だが、気持ちはひどく晴れやかだった。
「これでいいっす、無事に旗を渡せたなら……」
　真面目にやらなければ、盛り上げられるわけがない。後悔はなかった。