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心地よく揺蕩う
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寝子島シーサイドタウン駅を背に
ヒュー・ヒューバート
が佇む。空には薄っすらと星が見える。午後六時を過ぎて急に冷えてきた。
ヒューはスーツのボタンを嵌めた。右肩に掛けていたカメラケースは左肩に掛け直す。帰宅ラッシュが始まっているようで人通りが多くなった。
長い髪の女性を見る度にヒューは反応した。人違いと知り、何度も苦笑いを浮かべた。
そこへ長身の人物が現れた。急ぎ足で長い髪が左右に広がる。目にしたヒューが微笑むと
城山 水樹
は両手を合わせた。
「遅くなってごめん! クライアントの追加要求で時間を取られて……その、だいぶ待った?」
「そうでもないよ。それでこのあと、どうする?」
「このままヒューのアパートに戻るのはもったいないよね。久しぶりの寝子島だし」
ヒューは繁華街の方へ目を向ける。
「夜の散歩を楽しもうか」
「見るだけだとつまらないから、良さそうなお店があったら入ってもいいかもね」
「そうだね。それでいこう」
意見が纏まった二人は恋人繋ぎをして繁華街の方へ歩き出した。
人々の往来で通りは賑わっていた。夜が始まったばかりで、すでに赤ら顔の人物をちらほらと見かける。
肌寒さもあってヒューは、酒もいいな、と口にした。
水樹は不満げな顔で言葉を返す。
「居酒屋は周りがうるさくて純粋な会話が楽しめないよ。焼き肉って気分ではないし、臭いが移りそう。これ、割と高いのよ?」
ワインレッドのハーフコートの襟を摘まみ、演技めいた笑みを作った。
「それらを除外した店か。近場であるかな」
ヒューはスーツのポケットからスマートフォンを取り出した。すかさず水樹が声を掛けた。
「検索はなしで。宝探しの気分が台無しになるよ。もっと、そうね。子供心を楽しむみたいな感じで」
「それも悪くないか」
スマートフォンをポケットに戻し、ふと見つけた脇道に目がいく。
「あの道はどうかな?」
「抜け道っぽいね。いいかもしれない」
二人は人の流れから離れた。
薄暗い脇道に目が慣れると淡い明かりが目立つようになった。自然と足が早まる。
立ち止まった二人は外観を眺める。
「アンティークショップみたいな見た目だけど、違うよね?」
「扉には『隠れ家』のプレートがあるね」
「隠れた名店を想像させるね。老舗のフランス料理店かな」
「ありそうだ。僕としては洋食屋のような気がする」
「じゃあ、答え合わせをしないとね」
手を離した水樹が真っ先に扉を開けた。
店内に入った途端、二人は目を合わせた。
「どちらも外れたね」
「そのようだ」
「でも、ヒューの願いは叶ったね」
「会話を望んだ水樹も」
二人は微笑み、左端のスツールに座った。
水樹は木目の美しいカウンターや店内を見回す。
「カクテルのメニューがないね」
グラスを磨いていた老齢の男性バーテンダーはさりげなく口を開いた。
「当店はお客様の様子や会話から判断をしまして、適したカクテルを提供しております」
「珍しいね。あと出されるカクテルを想像するとワクワクする」
「お客様の期待に答えられるように心を込めて作ります」
軽く一礼したバーテンダーは作業へ戻る。
水樹はヒューに目を移す。
「久しぶりに寝子島に戻ってきたけど、今日は仕事に追われてのんびりできる時間がほとんどなかったよ。ヒューはどうだった?」
「僕はカメラマンとして仕事はしたけど、肉体的なきつさはなかったよ」
「感性が必要な職業だから精神的な疲れはあるよね」
「そうだね。あとライトの加減で目も疲れる」
ヒューは笑って言った。
会話が途切れた時を狙っていたかのように二人の前に白いコースターが置かれた。
水樹の前にはロンググラス。中身はオレンジ色でアクセントにサクランボが入っていた。
対してヒューはゴブレットで翡翠のような色のカクテルが注がれていた。縁には薄く切られたキウイフルーツが差してあった。
水樹とヒューはグラスを手に取り、最初の一口を味わって飲んだ。
「オレンジがベースでとても飲み易い。アルコール度数はあまり高くないよね」
「おっしゃる通りで五パーセント程度です。オレンジとピーチリキュールを混ぜました」
「もしかして肌にいいから?」
「身長の高さとバランスの良い歩き方を見て判断しました」
二人の遣り取りを聞きながらヒューは薄切りのキウイフルーツを口に含み、喉を鳴らして飲んだ。
「この甘酸っぱさが病みつきになりそうだ」
「そんなこと言われたら気になる。味見させてよ」
「ここでそれは」
ヒューはバーテンダーに目をやる。軽く頷き、水樹に伝える。
「頃合いを見てお出しします。ゴールドキウイに変えますと甘味が増して酸味は薄れます。どちらを希望されますか」
「それならゴールドで」
「畏まりました」
数分の会話でキウイカクテルがそっとコースターに置かれた。同じゴブレットに注がれていながら色は鮮やかな金色だった。
水樹は一口で気に入り、目を細めて味わう。
会話は進んで将来の話に及んだ。
「いつまでもモデル業が続けられるとは思っていないわ。若々しさと容姿だけで売れる期間はそんなに長くないからね」
「転身を考えているのかな」
「そうね。モデル事務所の経営もいいんだけど、映画界に女優として殴り込みよ。アクションスターなんかもいいよね」
「武勇伝を聞いている気分になるよ」
ヒューは口寂しさで頼んだ生ハムのカナッペを一口にした。
「もしもの話だけど、そうなったらヒューには撮影監督になって貰うわ」
「僕は映像カメラマンではないよ」
「習うより慣れろの精神ね。どこかの映画会社に飛び込むのよ。そこで下積みを経験して、晴れて撮影監督になればいい」
「たぶん僕は将来、独立してフォトスタジオを持つと思うよ」
水樹はカクテルを飲み干し、それもいいよね、と言ってあっさり認めた。
「結婚写真のサンプルは私達だよね。純白のウェディングドレスを着た私の横にヒューが、白いタキシード姿で並んだら絵になると思わない?」
「……酔いが回ったのかな」
ヒューは自分の顔に向かって手で扇ぐ。その背中を水樹は軽く平手で叩いた。
「まだまだ飲み足りないくらいよ。それに話すことも一杯あるし、別のカクテルをお願い」
「畏まりました」
バーテンダーは口元で微笑み、間もなくシェイカーを振り始めた。
水樹とヒューは腕を組んで駅まで歩く。
「なんか話が終わらなくて一生分? それくらい会話が続いたような気がするけど、気のせいよね」
「僕は少し顎が疲れたよ。あと初々しい気分にもなった」
「そんなこと、あった? キウイカクテルは美味しかったよね。新鮮で」
よろけそうになる水樹をヒューは腕で引き寄せる。駅に向かう途中で何度も、大丈夫? と口にした。
「良い気分で最高ー」
酔っていると思いながらも頷き、楽しかったな、と呟いて寝子島シーサイドタウン駅へと入っていった。
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あとがき
担当マスター:
黒羽カラス
ファンレターはマスターページから!
今回は二十歳以上を条件としたバーカウンターの話となりました。
老齢の男性バーテンダーと語らい、または恋人同士で語り合う。将来のことについても触れて、
人生を凝縮したようなリアクションになりました。
脇道の奥の方にある『隠れ家』なので少人数のシナリオが合っていると思いました。
今後も折を見て『隠れ家』はひっそりと開店することでしょう。
時の巡り合わせにもよりますが、色々なカクテルと人間味に溢れた会話をお楽しみください。
最後になりましたがご参加、ありがとうございました。
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担当ゲームマスター
黒羽カラス
シナリオタイプ(らっポ)
ブロンズシナリオ(100)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
日常
恋愛
コメディ
定員
5人
参加キャラクター数
3人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年06月05日
参加申し込みの期限
2026年06月12日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年06月12日 11時00分
参加キャラクター一覧
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