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ニャッティと7つのしま
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十年の月日は長くもあり短くもあり、その起伏が
梓 智依子
の感情を揺さぶった。過去の思い出したくもない記憶とていくらか想起されるも多くは愛娘・梓との幸福な思い出に彩られている。色鮮やかできらめくそれらが智依子の眠っていた記憶をも呼び覚ましていく。
「ママ! ほら、ニャッティ!」
「ええ、本当ね。ニャッティコーナーができているのね」
書店へ赴くとさっそく目に入る。ああ、ニャッティ。フルールにラッザロ、ペートルスも。色褪せない彼らを目にするたび、懐古の情が湧いては智依子を包み込んだ。ページに彼らの姿を追ったあの頃から、いつの間にやら十年が経っていた。感傷とある種の郷愁めいた思いが智依子を楓のみならず高揚させていた。
(予約とかしていなかったけど、買えるかしら……)
一抹の不安を口には出さず、期待に瞳をきらきらさせる楓の手を引きニャッティコーナーへ近づくと、目当ての一冊はおびただしく平積みになっていた。十年ぶりの新作は方々で話題となっていたから、出版社も本腰を入れて発売へ臨んだのだろう。おかげで楓が、そして同様に書店へ訪れた子供らが悲しい顔をせずに済む。
「ニャッティ、ニャッティ♪」
「はいはい、待ってて。今買ってくるから」
苦笑いしつつ一冊を取り、購入した。
春の息吹が親子の頬をくすぐる。いささかの熱を帯び少し暑いくらいで、一足飛びに初夏がやってきたかのような陽気だが、心地良い。
「このあたりがいいかしら」
楓がさっそく陽光の下で新刊を楽しみたいと言うので、寝子ヶ浜海浜公園にちょうどよいベンチを腰かけようとした、ところで。
「ママ、こっち! ここがいい~」
「ええ? そこ?」
青々と茂る芝生にころり寝転んだ楓に、智依子は苦笑いする。洗濯したばかりの服が早くも草と土に汚れてしまった。しかしそれもいいだろう。
「じゃ、ごろごろしながら読みましょうか」
「へへへー」
母と二人横になり、楓は上機嫌だ。はやくはやくとせがむ。
「はい、『ニャッティと7つのしま』。はじまりはじまり~」
「わぁ……!」
「きょうもニャッティはなかまたちと、イタズラざんまい。そこへ、あたらしいおともだち、ハリネズミのメルセデスがやってきて……」
ページを開けば早速、パステルで賑やかな世界が目の前に広がった。港で働く人間たち。その合間を駆け巡る多種多様な動物たち。樹々、建物、船の一隻一隻に至るまで精緻に描かれ、いくら眺めても飽きることがない。
「見っけ! ペートルス!」
「え、もう? すごいわね楓、どこどこ?」
得意げに指差した先、確かに子犬のペートルスが舌を出して駆けていた。楓は目ざとく注意力に長け、この手の遊びでは智依子よりよほどに優秀だ。
「どうやって見つけたの?」
「ん~? わかんない。ぱっ、て見つけられたの」
それを自身で具体化することはできていないようだが、ともあれ楓の才能だろう。智依子の目がページ上を泳ぐ中、楓は次々に仲間達の姿を見つけてゆく。一際にその声が弾むのはやはり、主役たる彼を見出した時だ。
「あー! いたー、ニャッティ! ママ、見つけた!」
「ええー、どこ? ニャッティ、どこにいるの?」
「ほら、ここー!」
巧みに物陰へ隠れている子猫のニャッティの笑みは智依子の記憶のまま、十年前と変わらず魅力的だ。変わらずそこで、智依子を待っていてくれた。
「ふふ……」
楓はどのページもすぐにニャッティやその仲間達を見つけてしまって、飽きてしまうのかと思ったら、前のページへ戻り今度は物語に触れて楽しんでいる。まだしばらくは彼女の中のニャッティ・フィーバーは終わらないだろう。
十年。長くもあり短くもある時の流れを智依子は思う。次の十年では、楓が智依子と同じ思いを抱くだろう。彼女もまた今日という日を記憶の中に想起するだろうか。思いは受け継がれてゆくのだろうか。そんな風に考えていたら、開けっ広げな楓の笑みが智依子を覗き込んでいた。
「楽しいね。楓」
「うん!」
ニャッティはきっとまた、十年経っても親子を待っていてくれることだろう。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
網 透介
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
日常
恋愛
NPC交流
定員
5人
参加キャラクター数
4人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年05月30日
参加申し込みの期限
2026年06月06日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年06月06日 11時00分
参加キャラクター一覧
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