紅葉の願い｜リアクション

紅葉の願い

◆落ち葉の使い道

　週末の寝子島。
　八神修と七夜あおいは買い物のためスーパーに赴いた。

「今日は何を作ろうか」

　そんな話をしながらスーパーを出た途端、見知らぬ景色が広がる。あちらこちらから白煙がたなびいて、硫黄の匂いも漂っている。そして往来をゆくあやかしたちが２人の目を惹く。修はあおいを庇いながら周囲を見回す。
　しかしこれといった危険は無さそうだ。

「あおい、どうやら大丈夫そうだ。折角だし、散策してみないか？」
「うん！」

　修はあおいの手を取って歩き出した。修のもう片方の手には先ほど買った食材を入れた袋がある。まるでこの街に帰ってきたような風情だ。白煙と硫黄から温泉郷だと予想はしていた。だから観光地のような雰囲気があるのだろう。すれ違うあやかしたちのなかには珍しそうに２人を見てくるものもいた。そんななか、とある店先で気さくな猫又に出会った。

「おや、人間とは。ようこそ」
「寝子島から迷い込んでしまったんだ。人間は、少し珍しいかな」
「あんまり見ないねえ」

　立ち止まって話していたら、他のあやかしたちも参加してきた。礼を失せぬように振舞いながら雑談に興じる。話していくうちに、ここが温泉郷だと確証が得られた。奥では大樹が見事に色づき、この時期に絵馬を掲げると願いが叶うという。

「色々話を聞かせてくれてありがとう」
「ありがとうございました！」

　２人は礼を言って大樹のほうへ歩き出した。近くで見ると葉の色合いがさらに鮮明に映る。先ほどの雑談ですぐに散ってしまうと聞いていたので、こうして見れたことは幸運だった。早速受け取った絵馬に願いを書き込む。

（あおいと俺に、何か素敵な良いことがありますように）

　あおいも同じようなことを書いていて、２人で微笑み合った。立て板に掲げた後は手頃な茶屋に立ち寄った。小豆洗いがおしるこを提供しているようで、早速いただく。

「おいしいな、これ」
「うん、甘くて幸せな味だよ」

　店先で座って堪能していると、あやかしたちが集まってくる。猫又のところで会った面々とは違うが、修たちに興味を示すのは一緒だ。修は買い物袋から、スーパーで買った菓子や飲み物を出す。あやかしたちが一斉に首をかしげた。小豆洗いも店の奥から出てきて不思議そうに眺めている。最初あやかしたちは菓子をじっと観察していたが、一口食べると気に入ったようだ。菓子の礼を求められた修は、少し考えてから口を開いた。

「じゃあ落ち葉を持ち帰っていいかい？」

　そう聞かれて彼らは快諾した。

「しかし、落ち葉なんてどうするんです？」
「帰ったら、和紙に漉き込んで葉書にしようかと思ってる」
「ほう」

　届けたい人がいるんだ、と照れながらあおいを見つめる。その意味を汲み取ってあおいも照れた顔を浮かべた。

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