紅葉の願い｜リアクション

紅葉の願い

◆絵馬に願いを

　羽生碧南と鷹取洋二は気づいたときには見知らぬ場所に立っていた。一見したところ、ここは温泉郷だということはわかった。しかしそこにいるのはあやかしばかり。碧南は少し身構えてしまう。

「なかなか面白そうなところじゃないか」

　洋二は通り過ぎるあやかしたちを見ながら楽しそうに話す。落ち着いて周囲を見てみると、確かに危険な雰囲気は感じない。それにとても綺麗な場所だと気づいたら、怖いという感覚はなくなっていた。

（寝子島に住んでるからそう思うのかもしれないけど）

　なんにせよ、危ないことは無さそうだ。せっかくの温泉郷に来たのだから思いっきり楽しむことにした。
　洋二と手をつなぎ、初めての街を散策する。通りには色々な店が並んでいて、観光地のようだった。気になって目移りしていたら、とある店のところで鬼に話しかけられた。

「お客さんたち。いい時期に来たもんだねぇ」

　一瞬その見た目で警戒してしまったが、柔らかな満面の笑みで安心した。鬼は遠くを指差す。そこには大きな樹がそびえていた。

「あの大樹の赤い葉が散らないうちに絵馬に願いを書いて掲げると、願いが叶うと言われてるよ」
「そうなんですね」

　この場の雰囲気も相まって、とてもロマンチックに感じられた。鬼は２人に絵馬を渡すと、ぜひ行ってみるといいと言いながら、その大きな手で背中を押した。

「洋二さん、折角だし行ってみませんか？」
「ああ、もちろん」

　それからしばらく歩いて、大樹のふもとにやってきた。先ほどの場所から見たときも大きく感じたが、間近でみると迫力がある。けれど威圧感はなく、むしろ寛容さを感じた。２人は絵馬に『互いに一緒に幸せになれますように』という願いを込めて、立て板にかけた。
　そして大樹からの帰り道。
　温泉郷に来たのなら宿泊できないかと考えて、絡新婦の女将が営む宿屋に相談した。正直飛び込みで泊まれるのか不安だったが、あっさり部屋に通された。
　やはり目玉は温泉ということで、早速入ろうと向かった。さまざまな温泉が存在して、普通ではないものもあった。どれに入ろうか迷っていたら、入り口のところに掲げてある『混浴OK』の看板が目に入った。

（混浴……）

　碧南は思わずカァーッと熱くなるのを感じる。

「どうかしたかい？」
「な、なんでもないです」

　照れ隠しのように温泉へ急いだ。最初は普通の温泉に入ったけれど、他にも色々楽しめそうだった。２人で溶岩風呂や雪女の水風呂、お肌つるつるのスライム風呂を満喫し、最後はこだわりサウナで締めた。
　温泉を満喫したあとは、お稲荷様のきつねうどんと小豆洗いのおしるこで晩御飯。うどんはジューシーなおあげに加えて、天ぷらも乗っていておいしい。そのあとに食べたおしるこも甘くて幸せなおいしさだった。満足して部屋に戻ると布団が２人分敷いてある。

（いきなり知らないところに飛ばされたときはびっくりしたけど、楽しかったなあ）

　隣で穏やかな寝息を立てている洋二を見ながら今日を振り返る。そして碧南もとてもいい気分で眠りに就いた。

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