給食食べよ！｜リアクション

給食食べよ！

恵御納夏朝は、はっとした。そこは小学校の教室で、授業終わりらしく皆ざわざわしていた。
「あれ、僕……どうしたんだっけ」
　夏朝はぼんやりとした記憶を辿ってみるが、思い出せない。
「夏朝ちゃん、当番だよね？　早く行こうよ」
　クラスメートが声をかけてくる。
「そうだった。給食の時間だね」
　夏朝は給食当番用の白衣エプロンをつける。すると、後ろから声をかけられた。
「夏朝」
「！　夏夜ちゃん？」
「準備できた」
「うん、大丈夫」
　夏朝と廊下にでながら、恵御納夏夜は学校の廊下を眺める。
（給食に、給食当番か）
　顔にはあまり出さないが、夏夜はわりとワクワクしていた。夏朝と一緒に小学生をできるなんて。
（こんなの………僕にとっては、とても貴重な経験だから）
　横目で見ると、夏朝はいつも以上に無邪気な笑顔だった。このあどけなさ、記憶があいまいなのかもしれない。
「夏夜ちゃん、どうしたの？」
「なんでも。夏朝が小学生みたいだなって」
「僕達、小学生でしょ？」
　他の給食当番がくすくすと笑う。
「もうすぐ中学生ってこと？」
「ちょっと気持ちわかるかも～」
　心が大学生なのは夏夜だけのようだ。
（不思議な気分）
　小学生になり切れてないのは残念だが、給食は楽しみだ。
「今日のメニューは……カレーだね、楽しみかも」
夏朝が言って、夏夜も頷く。
「責任重大、だね」
　皆が大好きなカレーだ。均等に配らねば、と。そんな大仕事を終え、夏朝と夏夜は机を向かい合わせに座った。
「それじゃ、いただきます！」
「うん……いただきます」
今日のメニューは豚肉入りで野菜ごろごろの甘口カレー、きゅうりとレタスとハムのサラダ、紙パックに入った牛乳、うさちゃんりんごだ。
　お互い、ストローを牛乳に通す。お互いに目が合い、夏朝は嬉しそうに笑う。
「えへへ」
「どうしたの、夏朝」
「なんか、楽しいなーって。夏夜ちゃんとこうやって一緒に給食を食べられるなんて」
それから、スプーンですくってカレーとご飯を一口。
「んー、昨日も多分食べたはずなのに、なんか懐かしい～。甘口、美味しいね！」
「確かに……甘口も良いものだね。給食のカレーってこういう感じなんだ」
分離前だから、夏夜に小学生の頃はなかった。本当に、形すら存在しなかった。
ある事情で中学の頃に生じた別人格で色々あって分離・共存できた身だ。
改めて、小学生の夏夜は存在しなかった。
「きゅうりとハムのサラダも美味しいよ！　って、どうしたの？　変な顔して」
　きょとんとして問うてくる。
「いや、一日だけでもこの瞬間だけでも、夏朝と小学生が出来て嬉しい。この味も忘れられないなって」
「んー？　僕ら双子なんだから今までもこれからも一緒でしょ？」
「双子……」
　生まれながらの双子設定なのかと驚くと同時に、そんな世界線もあったのかもしれないと、なんとなく思った。
「それはそうと、ニンジン食べる？」
　小声で聞いてくる夏朝。
「好き嫌いはダメ」
「冗談だよ。僕、ニンジン好きだしー」
　小学生の夏朝はニンジンが苦手だったのだろうか。元に戻ったら聞いてみようと思った。
　最後にリンゴを二人で食べて、給食の時間はあっという間に過ぎ去った。
「美味しかったね！」
　リンゴの甘酸っぱさまで、きっと今日のこの日を忘れない。

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