あなたへの手紙｜リアクション

あなたへの手紙

　羽生碧南は、木天蓼大学女子バスケ部「スカーレットキャッツ」に所属して２年目となりました。
　特待生で入ったので最初からレギュラー確約と言われていましたが、大学生相手となるとそうとんとん拍子にはいかず。
　１年生の時はどちらかと言えば控え中心でした。
　でも秋季からスモールフォワードとして定着し。
　２年になった今は、見事「スカーレットキャッツ」のレギュラー入りを果たしたのでした。

（去年はインカレで４位だったから、今年は優勝を目指す！）
　学費全免除の特待生ともなれば、存在意義を示さねばなりません。
　碧南は必死で練習に、その上油断するとすぐたまる学校の課題にも取り組んでいました。
　けれどそのおかげで、彼氏の鷹取洋二とはなかなか会えない日々が続いていたのです。
（試合が終わったら、きっと）
　その思いが碧南を支えていました。

「明日はいよいよ日本女子学生選抜大会ね」
　会場の奈良にやってきた碧南は、チームの皆と宿舎にいました。
「最近はとにかく練習ばかりでキツかった……でも大事な試合前だもんね」
　肉も野菜もバランスの取れた、そこそこ豪勢な食事をとってから風呂に入って一心地。
「生き返るなあ……」

　自分の部屋に戻って寝るかと思えば、鞄から便箋と封筒を取り出しました。
「碧南、カレシに手紙？」
　同級生に冷やかされても、堂々と答えます。
「そうよ」
（普段はメールやNYAINEでやりとりするけれど、たまには手紙もいいかな）
　旅に出ると、人は手紙を書きたくなるのでしょうか。

　鷹取洋二さま

　お元気ですか？　なかなか会えないけど、私は元気です。

　最初の一行を書いて、碧南の手は止まります。
「うーん……」
　ここ最近の近況とか、奈良にきていくつか名所を回ったことやその感想とか、書きたいことはたくさんあるのですが。
（なんて書いたらいいかしら……）
　ああでもないこうでもない、と悩みながら碧南は一生懸命手紙を書きました。

そうそう、大仏を見たら、なんだか洋二さんの顔が浮かびました。
別に似てるとかじゃないんだけど、大きさが……私にとって洋二さんの存在はそれくらい大きくて頼りになる、っていうか。

（……変かなあ？）　
　書いてみたものの恥ずかしくなって、やめようか迷ってみたりしながらとりとめなく書き進めます。

　明日の試合、頑張ります。絶対勝ちますね。

　そこだけは迷わずに書きました。
　
「できた！」
　なんとか手紙を書きあげて、封筒に宛名を書こうとしたとき、碧南は肝心なことに気づきました。
（メールやNYAINEでやり取りしてたから、住所がわからない……メールで聞く？　それじゃ意味なさすぎじゃん！）

　結局、手紙は帰ってから試合結果の報告と共に手渡しする羽目になったのでした。
　洋二がとても喜んでくれたことは言うまでもありません。

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