あなたへの手紙｜リアクション

あなたへの手紙

　綾辻綾花は、自宅で早川珪を思いながら料理を作っていました。
　今日は付き合い始めて一年の記念日なのです。
　お祝いのため、綾花ははりきって二人が好きなものを色々作りました。
（美味しいって言ってもらえるかな）
　まだ４月で、６月が誕生日の綾花はお酒は飲めませんが、ワインに合うおつまみも作ってあります。
（珪さんの喜ぶ顔が見たくてつい作りすぎちゃいそうです）

　ピンポーン。
「はーい」
　約束の時間ちょうどにチャイムが鳴って、綾花はわくわくしながら珪を迎えました。
「こんにちは、お邪魔するよ」
「どうぞ、上がってください」
　綾花の胸は、好きな人と一緒に居られる嬉しさでいっぱいでした。
　だからこれ以上の喜びなど想像していなかったのですが。

「綾花さん、これ」
　突然、珪から白い封筒を渡され、綾花はきょとんとしました。
　自分宛ての名前が書いてあり、その字は珪のものでした。
「え、珪さんから……私に？」
　珪は綾花を見つめ頷いて、席に座ります。
　手紙なんてあまり貰う機会がないので特別な感じがして、驚きと共に喜びがこみあげてきました。
「読んでも良いですか？」
「うん……ちょっと照れ臭いけど」
　そう言われて、綾花もドキドキしながら、でも中身が気になって開けずにはいられませんでした。

綾花さま

　生徒だった君が卒業して、つきあい始めてもう一年になるんだね。
　改まって言葉にするのは照れるけれど、口で言うよりは考えがまとまるかなと思って手紙を書きました。

　大切な生徒だった君が、一心に思いを寄せてくれる姿が眩しくて。
　教師として君を守らなくてはと思う気持ちに嘘はなかったけれど、卒業と共にお別れしてしまうのはどうしても寂しかった。
　ずっと一緒にいたいという願いは君の可能性を縛るようで、ずいぶん悩んだけれど、覚悟を決めたことを後悔はしていない。
　君は今も僕の傍で幸せそうに笑ってくれる。
　大学にはきらきらした青年がたくさんいるだろうに、こんなかつての青年との時間を大切にしてくれる。
　本当にいつもありがとう。

　縛るつもりはないから、君が望むままに自由に幸せになってくれることが僕の幸せでもあるのだけど。
　君の隣で成長を見守り続けられる時間が少しでも長いことを、願ってしまう。
　
　これからもどうか、よろしく。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　珪

「珪さん……」
　珪の誠実な気持ちが伝わってきて、胸が温かくなるのを感じました。
　うっかりすると涙が出そうで、あえて明るい声で綾花は告げます。
「こちらこそ、これからもよろしくお願いします」
　珪のグラスにワインを注ぐと、珪は綾花のグラスにジュースを注いでくれました。
「二人の記念日に、乾杯」
　そっと触れ合ったグラスが、いい音色を奏でました。

「私もお手紙書きますね」
　綾花は珪を見つめ、微笑みました。
　想いを言葉にするのは難しいけれど。
　きっと甘い手紙になりそうだと思いました。
（いつもなかなか言えない、好きのこもった手紙ですから）

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