あやかし市｜リアクション

あやかし市

「……またしても霊界か」
　月原想花は、自分の手足を確かめます。
「一応は死んでないみたいだけど……なんか周囲が騒がしい」
　よく見ると周囲には露店が並んで、祭りでもやっているかのようなにぎやかさです。
「あやかし市へようこそ。好きなものを買っていきなよ」
　そう店員に声をかけられ、想花は並んでいる商品を眺めました。
（なんか妙なものを売ってるみたい……）

「頭がよくなる本、運動神経がよくなるサプリメント……こっちは美人になる化粧品か」
　値札を見て想花はため息をつきました。
（……どれもこれもなんか胡散臭い。おまけに値段はそれなりときている）
「ほしいものなんかないけど……」
「おや、何か買わないと帰れないよ。お金がなければ物々交換でもいい」
「えっ？」
　店員の言葉に、想花は困り果てました。
「どうしよう……」
　財布の中身を確認すると、お札と小銭をあわせて3194円でした。

（本当にこのまま帰れないとか……？　何か買えばいいんだよね？）
　しばらくの間適当にぶらつきつつ、安い品を探します。
　あやかし市だけあってやはり人目を引くものが多いのですが、どれも高く手が出ないものでした。

　ある露店で想花の足が止まりました。
　そこには万年筆とかペンが並んでいましたが、ひときわ目立つ説明書きがありました。
「どんな人間でも文豪になれる万年筆」
（ああ、これなら欲しい、けど）
　二度見した想花でしたが、値段を見て目を剥きました。
「……5000万円！　そんなの買えるか！」
「お嬢さん、お目が高い」
　苦虫を噛み潰したような愛想のない店主が言いました。
「買えないよ……5000万なんて」
　想花の声が上擦りました。
「お金がないなら何か売れるものがあれば交換してもいいっていうけど……そんなの持ってないし」
　すると店主は想花をじっと見て言うのでした。
「わしを笑わせたら売ってやる」
「えっ、本当に？」
　店主はだまって頷きました。
（本当ならとてもうまい話だけど……どうやって笑わせたらいい？）
　自分を暗い性格だと思っている想花にはとてもハードルの高い条件です。
（ええい、ままよ）
「隣の屋敷に塀ができたってね……へー」
　沈黙が落ちました。
（さすがにこれはないよね、やめときゃよかった！）
　しかし恥ずかしがってはいられません。
「こうなれば実力行使で！」
　店主をくすぐろうと手を伸ばした想花。
　ひらり。
　店主は顔に似合わぬ身のこなしで、想花の手をすり抜けました。
　ひらり、ひらり。
　何度やっても同じで、この方法はあきらめざるを得ませんでした。

「それじゃ、ぼくの真似をしてください」
　次の方法をひねり出した想花。
「手を叩きましょう♪　たんたんたん　たんたんたん」
　想花の手拍子に合わせ、店主も手をたたきます。
「笑いましょ　あっはっは♪」
　思い切り笑顔を作る想花。
　しかし、店主の表情はぴくりとも動かないのでした。
「もうだめだ……笑わせるなんて無理だよ」　
　がっくりうなだれる想花。
「店主さんは何が好きなの？　何が面白いと思うの？」
　思い切って尋ねてみました。
「わしが好きなのは、やぶれかぶれになったお客の絶望だよ」
　そう言った店主の口角が、じりじりと上がっていくのを想花は見ました。
「笑った！　今笑った！」
　想花の言葉にはっとする店主。
「今のは……仕方ない、これだけ売ってやろう」
　そう言うとすばやく想花の手に何かを握らせ。
　あたりは一瞬で闇となりました。
「残りはまた買いにおいで」

　闇が晴れたとき。
　想花は寮の前に立っていました。
　握った手を開くと、あの万年筆の、キャップがそこにあったのでした。
「キャップだけ？！」
　がっくりした想花ですが。

（なんだか書けそうな気がする）　
　不思議に創作意欲が湧いてきたのでした。

　
　

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あとがき

担当マスター：茄子りんこ
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ご参加ありがとうございました。

紫苑さんと想花さんはあやかし市で出会っていませんが、市が広かったのか、あるいは別の市だったのかもしれません。
一度あやかし市に行った者は、あと二回だけ行けるという噂もあります。

また機会がありましたらご参加お待ちしております。
もちろんあやかし市に限らず、他のシナリオでも。

それでは皆様、良いお年をお迎えください。

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