あやかし市｜リアクション

あやかし市

「霊界の珍しい食べ物ですかぁ……どんなのがあるのでしょう？」
　巫部紫苑は、興味深そうに露店の商品を見回しました。
「滅多に来られない場所なら……珍しくて美味しいものがあるかもしれませんね♪」

　市場を巡りながら、気になる食べ物の露店で立ち止まります。
「いらっしゃい」
「とりあえず、メニュー全種類下さい♪」
「は……？！　ま、まいどあり」
　並んだ商品は普通の露店に比べて高めの値段ですが、日ごろから美味しいものを食べるため財布を暖かくしている紫苑は気にしません。
　お金を受け取った店員が商品を持ってくると、
「いただきます」
　紫苑はさっそく湯気の上がる串焼きを、その場でペロリと平らげました。
「霊界でもこういう買い食いは美味しいですねぇ♪」
　メニュー全種平らげて満足したかと思いきや、すでに紫苑の目は他の店を捕らえています。
「次はあっちのお店に行きましょう」
　
　食べ物の店に向かう途中、道すがらの他の露店にも紫苑は目を留めました。
「ふむふむ……食べ物以外にも色々売ってますけど……霊界なのに結構普通？　なものも売ってるんですねぇ」
　紫苑は『若返る』や『頭が良くなる』といった商品に、通販みたい……という感想を抱くのでした。
「う～ん、冷めない鍋とか、鮮度を保つ包丁……気になる調理器具は幾つかありますが……」

　でも、今は目の前の食べ物が紫苑を呼んでいます。
「やはり食欲には勝てませんね」
「いらっしゃい」
「メニューを全種類ください♪」
「はい、ただいま」　
　出てきた色とりどりの宝石のようなフルーツたちは、口の中でとろりと溶けていきます。
　美味しそうに完食する紫苑に、店の人も感心しつつ。
「いい食べっぷりだねえ、お客さん。さすがにもう満腹でしょう？　食欲が湧くドロップなんていかがです？」
　などと、別の商品を売り込もうとしました。
　しかし紫苑は涼しい顔です。
「美味しかったです、ごちそうさま。いえいえ、全然。まだまだ入りますよ」
　と答えつつドロップにも興味を示すのでした。
「これですか。結構値が張りますね……気にはなりますがまずは手頃なものを全制覇してからですね」
　お金が減る心配もお腹が苦しくなる心配もせずに、店から店へと食べまくります。
「ふふ、お祭とは違う雰囲気で、これはこれで楽しいです♪」

　店員たちは小声で（あれ、人間だよな……）と噂したとかしないとか。
　

「さぁ、もっともっと食べまくりますよ♪」
　けれどやがて、あたりは暗闇に包まれて。
　闇が晴れたとき、紫苑は見慣れた街に立っていました。
　財布の中身が尽きる前に、残念ながら今回のあやかし市は終了したのでした。
「また市が立ったら、行きたいですね」
　美味しかった様々な食べ物を思い起こしながら、紫苑はつぶやきました。

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