廃都物語｜リアクション

廃都物語

「こっちへ」
　手を伸ばすと、引っ張られる。シオは体を捻って、床を蹴ると、ライダーの後ろへ着地する。バイクが加速する。
「大丈夫？」
　バイクのライダー、莉鳥が聞いてくる。
「ええ、ありがとうございます」
　なんとか逃げられそうだろうか。
「隣の建物に移るわ。あなた、どこかのコミュニティに向かってるの？」
「ちょっと、回収したいものがあるのです。追って来ていないみたいだから、ここで降りますね。助かりました！」
「気を付けて」
　走ったままのバイクから、飛び降りたシオは跳躍して地面に着地。
　反対方向へ駆け出す。
「あっ！」
　石の壁から綺麗な水が流れ出ていた。凹みに溜まった水は透明度が高い。近くに柄杓が置いてある。
（飲料水？）
　もしかすると飲めるかもしれない。
「やった」
　持っていた水筒のような容器を取り出す。しかし、後ろから柴犬達が追ってくる。さらに、反対方向から水を求めているのか、三匹目のナニカが地面を嗅ぎまわりながら近づいてくる。
「！」
　シオは蓋を開けて湧き水をその中へ注ぎ込む。そしてナニカ達が近づくと同時に近くの草むらの中へ滑り込む。
「はあ、はあ」
　ナニカ達が鉢合わせ、壮絶なバトルが始まったものの、シオの存在はまだバレていない。ほっと一息。
　戦いは数時間に及び、そこから脱出できたのは日が暮れたころだった。

　莉鳥はシオを分かれてからバイクを走らせていた。
「っ！　しつこい」
　どこまでも追いかけてくる。
　と、その時。
「あ！？」
　バイクのタイヤが滑って、クラッシュ。莉鳥の体が投げ出されて、地面に落ちる。
「痛っ」
　体を起こすが、迫ってくる。もうダメかもしれない。
　しかし。
　どこからともなく飛んできた弓矢がナニカの目を貫いた。
「大丈夫かっ」
　走り寄ってくるのは、コミュニティの仲間達だった。
「さあ、捕まれ。行くぞ」
　間一髪だった。彼らの助けでその場を離れる。
　莉鳥は仲間に支えられながら、後ろを振り返る。ナニカは形を変えながら蠢いている。きっとこの世界が滅びた瞬間に現れた致命的なバグなのだろう。これからも人間との戦いは続いていくに違いない。
　莉鳥はふっと息を吐いた。

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