【星幽塔】第一階層　あるふつうの日（ただし星幽塔における）｜リアクション

【星幽塔】第一階層　あるふつうの日（ただし星幽塔における）

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　想花を取り囲んだチョコレートガンナーたちが、一斉にチョコレートを噴射する。
「うわ、チョコレート……！？」
　今までで一番ヤバそうな攻撃に、慌てて身を翻す想花。しかし四方八方からのチョコレートを避けきれず、ひっかぶってしまう。
「あ、ちょっと美味し……っぷぇ！」
　苦いタイプじゃなかったのは幸か不幸か、ともかくペペっと吐き出して想花は魔水の力を発動した。
　わらわするガンナーたちを押し流すように水流を発射。
　死角から近づいてきたのに気付き、メイスをフルスイング。小さなガンナーを、チョコ色の流れ星に変える。
　そうしてなんとか一掃する頃には、想花はすっかりお菓子塗れのべったべただった。
　おまけに全身そこらじゅうから甘い匂いがして、少し気持ち悪いくらいだ。
　うんざりした顔で、想花はため息をこぼす。
「……しばらくお菓子食べたくない」
　あと、お風呂入りたい。

◆
　熱いのが苦手そうな子には、アイスティーを。もっと甘い方が好みの子には、ミルクティーに砂糖を入れて。
「この子はお茶に興味なさそうかなぁ？」
「それなら、アイシングでお洒落に挑戦してみる？」
　言葉を発しない彼らも、仕草を観察していれば考えはなんとなく見えて来るもので。
　仲良くなれてきたと感じた柚春は、聞いてみることにした。
「ねぇ、どうしてあなたたちは暴れてたの？」
　言葉を発せないなりに、身振り手振りで応じるビスケットマン達。そこから察するに――
「動けるようになったのが嬉しくなった？」
　柚春の言葉に、お茶会に混ざっていたビスケットマン達がうなずく。はしゃいでいるように感じたのは、どうやら間違いではなかったらしい。
　それなら、と。ワットが例の二人のお手伝いを提案した。
　要するに、動けるようになった喜びを発散できれば良いのだ。お手伝いなら、研究者とお菓子屋さんの二人の役にも立てる。幸い、二人も快諾してくれた。
「じゃあみんな、他の子たちにも伝えてくれる？」
　柚春がお願いすると、ビスケットマン達は周りの魔法生物達に伝えに行こうと、わらわら駆け出していくのだった。
　まだ暴れ足りなさそうな子と軽くバトったりもしているが、それもじゃれ合いのようなもの。すぐ落ち着くだろう。
　そんな中、一体のビスケットマンが不思議そうに見上げていることに柚春は気付く。
「どうしたの？」
　問いかけてみれば、ビスケットマンは身振り手振りで何やら訴えて来る。
　どうして自分たちに良くしてくれたのかと、そう尋ねているようだった。
　柚春はウォルターの顔を引き寄せ、そっと頬に鼻先で触れてビスケットマンに答える。
「僕らはね、いつもあなたたちにお世話になってるの。大好きな人と幸せな時間を過ごすのに協力してもらっているんだ。ね、ワット？」
「うん。君たちお菓子の協力は、素敵な時間を過ごすには不可欠なんだよねぇ」
　ウォルターが柚春の頬へ触れる。
　幸せそうな笑みを返し、柚春はビスケットマンにも笑いかける。この場のどのお菓子よりも、甘く幸せそうな笑みだった。
「だから、お話しできて嬉しいんだ。……ありがとう」

　こうして星幽塔のとあるふつうの日の出来事は、平和に幕を下ろすのだった。

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