【星幽塔】第一階層　あるふつうの日（ただし星幽塔における）｜リアクション

【星幽塔】第一階層　あるふつうの日（ただし星幽塔における）

◆
　――また異世界転移した。
（こういう場合、チートして無双……ってことはないんだよね）
　現実の厳しさにがっかりしながら、月原想花はお菓子な魔法生物たちと向き合う。
「とりあえず、数の多いビスケットマンからかな……」
　メイスを握り、謎のクリームを投げ散らかすビスケットマンたちのもとへ向かう。
　だがそんな彼女の前に、キャンディジェントルが立ちはだかった。素早く繰り出されるキャンディケインに、一歩二歩と後退る。
（当たっても痛くなさそうだけど、当たるのは嫌だな。ベタつきそうだし）
　そう思う間にも、キャンディジェントルがケインを剣のように突き出してくる。その動きは意外と様になっていて、しかもわりと素早い。
　――べちゃ。
　距離を取ろうとさらに下がった途端、靴が柔らかくべたっとしたものを踏む感触。次の瞬間、想花はクリームで足を滑らせていた。
　受け身を取り損ね、背中をしたたかに打ち付ける。と同時に、背中にべちゃっとした感覚。
「～っ！？」
　ついさっき踏んだクリームだと察しはついても、さすがに背筋がぞわっとする。　
　跳び起きた想花に、クリームのおかわり。メイスで弾き落とすが、飛び散ったクリームが少し前髪につく。
　反射で目を覆った隙に、二体のキャンディジェントルが突きを放つ！
　当てずっぽうで、メイスを横薙ぎに振るう。
　キャンディだから軽いのか、メイスが起こした風圧にケインごと態勢を崩すジェントルたち。
　その隙を突いて、メイスで頭を一撃。倒れた所にもう一発。これれでジェントルたちはダウン。
　背中のクリームのせいで既に疲れた気分の想花だが、魔法生物たちはまだ居るわけで。
「今、何か……」
　背後に気配を感じて振り返ると、今度はワニが襲いかかって来た。噛みつかれる！
「うわあああっ！？」
　ぎゅっと目を閉じて、悲鳴をあげる想花。
　…………あれ？
（痛くない？）
　どっちかというとくすぐったい。あとなんか、またベタベタするような……。
　恐る恐る目を開けると、脚にさっきのワニがかじりついていた。ただしそのワニは、プルプルしたゼリーの身体をしている。
（ゼリーのワニ……？）
　とりあえずメイスで頭をぶっ叩くと、ワニはノびた。
　しかしほっとするのもつかの間、さらに飛びかかって来る！
「ベタベタするのはイヤなんだって……！」
　ひときわ大きく跳びはねた一体を、メイスをバットのように振るって打ち返す。意外と軽い。
「うわ、ちょっ」
　その隙に、足元に噛みついてくるゼリービーストたち。口元をもごもごさせるのがくすぐったいうえに、服がどんどんベタついてくる。
　魔水の力を発動し、起こした水流で一気にゼリーたちを押し流す。けれどもベタベタはそのままで、げんなりする想花だった。

◆
　周りのお店の人たちに少し手伝ってもらって稲積柚春が用意したのは、一見すると状況にそぐわないお茶会の席だった。
　お菓子たちは暴れてこそいるが、攻撃的というよりは、子どもがはしゃいでいる風に感じたのだ。
「お菓子とのお茶会だなんて、素敵なアイデアだねぇ」
　褒めるように耳に触れるウォルター・Bに頬を寄せ、柚春はビスケットマンたちに呼びかける。
「ねぇ、あなたたちはどんな香りの紅茶が好き？」
　元が紅茶との相性が良いお菓子だからだろうか。
　魔法生物のうち、ビスケットマンがぞろぞろとお茶会の席へと向かってくる。さすがに全員ではなかったけれど。
「ダージリンが大人気だね。僕たちから見て相性が良い紅茶って、この子たちから見ても好みなのかな？」
「かもしれないね。こっちの子はミルクティーが似合うかなぁ？」
　そうしてウォルターと二人でビスケットマンたちの相手をしていると、ドライフルーツの練り込まれたビスケットマンが現れた。ウォルターの方にも、茶葉を練り込んだ子がやってきている。
　こうなるとプレーンな子たちとは違って、簡単にはお勧めは出てこない。
　ウォルターと目を合わせて、お互いに微笑み合う。こういう時は――
「あなたのお友達を作るなら、どの香りの紅茶がいいと思う？」
「君のお友達を作るなら、どの紅茶がいいかなぁ？」
　そう、聞いてみれば良いのだ。

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