寝子小・寝子中卒業式！　希望を胸に！｜リアクション

寝子小・寝子中卒業式！　希望を胸に！

「あれ？　ここは一体？」
　寝子島中学校一年の佐藤瀬莉は、いつのまにか妙なところへと迷い込んでいました。
　卒業式とはいえ一年生ですから、気楽に学校へ来てテキトーに待っていたのですが。
　卒業式が始まるまえにトイレに行ったら、そこでいきなり小学生くらいのおかっぱの女の子に声をかけられたのです。
（え、おかっぱに私服で吊りスカート……このかっこうってまるで）
　トイレの花子さんのようだ、と瀬莉は思いました。
「このドア、開けて」
　その子は瀬莉に、見たこともない古いドアを開けるようにと言うのでした。
「何これ……」
　しばし迷った瀬莉でしたが。
（なんだか、向こうへ行かなきゃいけない気がする）
　思い切って扉を開け、その向こうへ足を踏み入れたのでした。
「ここは……？」
　周囲を見ると、そこは寝子中ではありませんでした。
　学校のようですがとても古い木造校舎です。
「ここはあやかし学校よ」
　花子さんが言いました。
「あやかし学校というだけあって、周囲は皆あやかしばかりね」
「佐藤瀬莉ちゃん」
「……はい？」　
　急に名前を呼ばれ、瀬莉は思わず返事してしまいました。
「えっ？」
　ふわり。
　体が急に軽くなり、透き通り。
「なにこれ、幽霊……？」
　瀬莉が呆然と透明になった手を見つめていると、いつの間にかあやかしたちの集まる教室にいました。
（どうしよう。あたしは無事に元の世界へ帰れるんだろうか……？）

　柚春とウォルターはあやかし学校の中を歩いていました。
「学校なんて何も変わってないと思ったけど、小学校って扉が小さかったんだね。見てみて、机も可愛い！　こんなだったかな……」
　しかし、そこに座っている子供たちの異形の姿に気づき、柚春もウォルターも息を飲みます。
「卒業式に合わせた期間限定イベントかな？」
「ハロウィンの時期ならわかるけどねぇ」
　座っているのは妖怪の子供たちばかり。
「いろんなお化けの仮装をした子がいるけど、まさか寝子島風の卒業式ってことじゃない……よね？」
「ようかい組、って書いてあるねぇ」　
　戸口の上のクラス札を見てウォルターは言うのでした。
「隣の教室はゆうれい組って書いてある……空き教室を使っているのかもしれないけど、こんな所に迷い込んだら卒業式の思い出が怖い物になっちゃうよ。僕らで迷子になる子がいないか見回りしよう！」

　とはいえ、柚春もウォルターもホラーは苦手です。
「ホラー映画を見るときの約束通り、しっかり手を繋いで離れずにいようね」
　そう言って柚春はウォルターの手を握りました。

「あれ？　あの子、どうしたのかな？」
　廊下を歩いていた柚春とウォルターは、うつむいて顔を手で覆っている子を見つけました。
「ねぇ、どうしたの？　何か困って……」
　にょろ。
　いきなり子供の首が伸び、天井近くに上った顔が舌を出して笑います。
「わっ？」
　あやかしの悪戯にびっくりした柚春ですが、一拍おいて。
「最近の技術は凄いな。本物みたい！」
　と感動の声を上げました。
「……すごいけど、僕には本物にしか見えないねぇ」
　ウォルターの言葉に、え？　となった柚春。
「うそ、だってそんな……」　
　少し混乱し、思わずウォルターを抱きしめてしまうのでした。
「えっとつまり、あれは本物でここは本当のあやかしの学校？」
「そうみたいだねぇ」
　戸惑った柚春ですが、やがて落ち着きを取り戻しました。
「本当に困っている子に会えば、あやかし人間関係なく助けるよ。ここで卒業式をやっているのは本当だもの。皆が胸を張って巣立っていけるようにしなきゃ」

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