雨の降る街の雨雲蜘蛛｜リアクション

雨の降る街の雨雲蜘蛛

　降りしきる雨。
　水玉模様の街。雨音以外は何も聞こえない。
　スピカは迷い込んでしばらく、この水玉模様の世界で彷徨っていたが、レインコートの女の子に出会ったことでようやく自分の状況を知った。
「これで、良い？」
　雨雲蜘蛛なるこの世界の怪物を倒すために必要なレインコートと傘を受け取ったスピカは、それを纏って女の子に見せた。
「はい、ばっちりです。では行きましょう。私も、結界を張って逃げられないように」
「それは、大丈夫だと思う」
　ここは高台の公園なのだ。彷徨ううち街全体を見渡せるこの場所に辿り着いた。
「雨雲蜘蛛の位置を教えてほしい」
「え！？　まさかここから！？　ええっと、南南西方向、ですかね」
　スピカは傘を構えた。淡い光が傘とスピカを包む。
　雨を吸収することで、目視の精度が格段に跳ね上がった気がする。
「見えた。あそこの、紫色のもこもこ？」
「そ、そうです。遠いですけど、見えるんですか」
　雨の力と相性が良いのかも知れない。
「当たったら、距離を詰める」
　スピカは傘を狙撃銃のように構え、
「ロックオン。逃さない」
　雨の力を解き放った。
　弾丸は白銀の氷の結晶の形をしていた。まっすぐブレることなく飛んで行き、この距離にして雨雲蜘蛛の肩周辺にしっかり突き刺さった。
「ぎゃおおおおん」
　雨の街に響く声。着弾点を中心に凍結が始まったのを確認し、スピカは地面を蹴った。強化された身体能力で民家や建物を飛び移りながら、雨雲蜘蛛がいた大きなビルの屋上へと降り立つ。それと同時に、スピカは、傘を畳んで雨雲蜘蛛の前足付け根に突きを叩き込んだ。
「ぎゃおん！！」
　もこもこ雲のような体の蜘蛛は、痛みに悶えているよう。
「ごめん、帰らないと行けないから」
　蜘蛛は突然のことに混乱しているのか、理由もわからず、といった様子で襲いかかってきた。
　勢いよく振り下ろされる蜘蛛の足を傘で弾いて横へ回避し、傘の真ん中を持つ。
　雨の力を吸収した傘は鎌のような形を取り、スピカはそれを思いっ切り体に滑らせた。
　スパンと、雨雲蜘蛛の腹辺りが切れる。すぐに凍結していき、後ろ足の付け根が氷漬けになってしまった。　
　がくんと崩れ落ちる雨雲蜘蛛。悪あがきの体当たりを避けつつ、傘を剣のようにして、振り上げ、跳躍。
「これで、終わり」
　思いっきり振り下ろし、雨雲蜘蛛の額のマークを粉々に砕いた。瞬間的に凍結した雨雲蜘蛛は、そのまま粒子となって散っていったのだった。
「す、凄い」
「終わった。もう、帰れる？」
「はい、異世界への扉が開きます！　あの、ありがとうございました」
「うん。それじゃ」

　あっという間に去って行った少女達に思う。
「お二人共、才能ありますね……。ここに住んでくれないかなぁ」
　傘を広げた女の子が雨の中、呟いた。

このページにイラストを設定する