外に出たいのに！｜リアクション

外に出たいのに！

◇海の見える窓辺で

　寝子島町役場総務課勤務の三折部朝衣は、目覚ましの音と共に午前6時ジャストに起床しました。
「おはよう、遥人」
「おはよう、朝衣」
　キッチンではすでに婚約者の住沢遥人が朝食の準備をしていました。
「……いい匂い」
「もうすぐできるよ」
　仕事で忙しい朝衣は、独り身のころは少しでも長く寝ていたかったものでした。
　でも二人になって、遥人が用意してくれた朝食を食べる時間はかけがえのない幸せな時間となりました。

「ごちそうさまでした」
　パジャマのままで朝食を食べ終わった朝衣は、身支度を済ませ、出勤用の服に着替えました。
　遥人のほうもすでに出勤準備を済ませています。

「それじゃ、行きましょうか」
　玄関に出てドアを開けようとした朝衣でしたが。
「ドアが開かない？」
「どうしたの」
　遥人がやってきて笑いながらドアを開けようとしましたが──まったく開きません。
「どうなってるの？」
　アパートの二階なのでベランダから出るには無理がありますが、それでも朝衣はベランダの引き戸を開けようとしました。
「……だめ。ここもまるで溶接されたみたいにビクともしない」
「弱ったな」

　さすがにこれはどういうこと？　と焦りだした朝衣。
　遅刻確定なので、職場の寝子島町役場に電話を入れると。
　ずいぶん待たされたのち、電話に出たのは意外なことに守衛さんでした。
「三折部です。すみません、出勤しようとしたらドアが開かなくて」
「あんたもかい」
「えっ？」
　聞いてみると、朝衣たちと同じような状況で出勤できない、という連絡がジャンジャン来ているとのことでした。
「大変なことになったわね……」
　電話を切ると、遥人の方も職場の洋食店『青猫亭』への電話を終えたところでした。
「みんな来れないから、今日は臨時休業だって」
　首を横に振る遥人。

「いきなり休日になっちゃったわね」
　朝衣は通勤着からお気に入りのTシャツとジーンズに着替えました。
「休みはありがたいけど、外にでられないんじゃね……」
　寝子ヶ浜海岸に面しているアパートは、窓からいい感じの波が見えました。
　ぽかぽかした春の日差しもあってサーフィン日和。

　恨めしそうに外を見ていると、遥人がコーヒーを淹れてくれました。
「ねえ遥人、今の見た？」
「ああ、心はボードに乗ってた」
「いい波だったね」
「外にでれたらなあ」
　二人はコーヒーを飲みながら、ゆっくり話します。
「でも遥人と一緒だし、こんな風に過ごすのもいいよね」
「ああ」

　窓際で一日中外を眺めつつおしゃべり、というのも悪くないよね。
　そんな風に思った朝衣と遥人でした。

　翌朝、何事もなかったようにドアは開きました。
「よかった……のかな？」
　ほっとしつつ、仕事が束になって待っていることを思い、少し憂鬱になるのでした。
　

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：茄子りんこ
ファンレターはマスターページから！

ご参加ありがとうございました。
外に出られない変則的なシナリオでしたが、皆さま前向きに楽しむアクションをかけていただけました。
楽しく書かせていただきました。

らっかみ！　もいよいよラストスパート。
皆さまの日々を大切に書かせていただきたいと思います。
またご縁がありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。

↑ページトップに戻る