外に出たいのに！｜リアクション

外に出たいのに！

◇本が足りないこんな日は

　大学生の倉前七瀬は、玄関のドアに手をかけました。
「？　鍵はかかっとらんはずなのに、押しても引いてもうんともすんともいいません……ふむん、どうしたものか」
　外に出ようとノブをガチャガチャさせても、ドアはぴくりとも動きません。
「散歩に行こうと思っとったんですが」
　思い立って窓を開けようと試みましたが、これも開きません。
「ふむん……仕方ないですね。今日は家で過ごしましょう」

　七瀬はこの間買った本を読みつつ本棚の整理をすることにしました。
　とはいえ、七瀬の本棚は普段からきちんとしており、ほとんど整理に時間はかかりません。
「こういうときに限って課題は終わったばかりですし」
　司書教諭を目指す七瀬は普段課題に追われ忙しいのですが、休日をのんびり過ごそうと片づけたのが仇になりました。
　そして頼みの綱の本も、元々読むのは速いので、そんなに時間がかからず終わってしまいました。
「こんなことになるとわかっていたら、もうちょっと読み応えのある百科事典とか買っておけばよかったです……！」

　さて、次はどうしましょうか。
　思案した七瀬はスマホを手にとりました。
（ウォルターさんに電話……してもいいかな？）
　忙しいであろうウォルターに電話するとき、七瀬はいつも少し考えるのでした。
　そして、話したい気持ちが勝ちます。
「もしもし、お時間よろしいですか？」
『やあ、どうしたんだい？』
「実は家の中に閉じ込められてしまったみたいなんですよー、やることもなくて暇なのでウォルターさんに電話をかけてしまいました」
　普段通りのなんでもない調子で言う七瀬。
『へぇ、それは大変だねぇ』
　応じるウォルターの声も緊張感がありません。
　それが七瀬を安心させるのでした。
「閉じ込められたとはいえ、なんとかなる気がしてますのでご心配にはおよびません」
『七瀬なら大丈夫だろうねぇ、別に犯罪がらみじゃないだろうし』
「読みたい本があったらよかったんですけどね。それはそうと、ウォルターさんは1人の時どうやって過ごします？」
『僕？　そうだねぇ、長い時間一人になることはあんまりないんだけど』
　少し考えていたらしいウォルターの声が返ってきます。
『本を読んだり音楽を聴いたり、かなぁ』
「僕はいつもやったら散歩に行くんですけどねぇ。家の中より外のほうが、ワクワクする文字があるので！」
『七瀬は本好きだと思ってたけど、文字好きなんだね。面白いねぇ』
「本はもちろん面白いですけど、本の中に入れたりはしないんで。子供のころはもっと没頭してた気もしますけどね」

　そんなとりとめのない話を続けて、ふと七瀬は時計に目をやりました。
「……と、ウォルターさんと話してたら結構時間経った気がします。楽しいことはあっという間です」
『そうだねぇ』
「外に出られずとも、こんな過ごし方なら家の中で過ごすのも悪くないですね」
　話せてよかった、と七瀬は思うのでした。

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