寒い時こそ、辛いもの｜リアクション

寒い時こそ、辛いもの

◆寝子島辛いもんデスロード

　落合まゆらが散歩をしていると、ミューチューバーの『パンダ』こと笹川帆太に偶然出くわした。どうやら次に投稿する動画の撮影中のようだ。

（何やってるんだろう）

　まゆらは彼の動画に何度か出演したことがある。きっと今回も何かの企画なんだろう。そんな風に思っていると、彼もまゆらに気づいて声を掛けてきた。そして世間話もすっ飛ばして動画の出演を依頼された。

（まあ、どうせ暇だしいいか）

　そう思って承諾したが、企画内容は『寝子島辛いもんデスロード』という不穏な空気の漂うものだった。すぐさま断ろうと思ったまゆらだったが、結局押し切られてしまい、収録に応じる羽目になった。
　帆太に連れられて最初に訪れたのは、１００倍カレー『Outrage』。限界を追求した、容赦ない辛さを売りにしているカレー屋だ。とはいえ全部がそうではなく、ふつうのカレーライスやココナッツ風味のタイカレーなど豊富なメニューを揃えている。
　しかし今回の企画でそういったものが選ばれるはずがないことは察していた。

「今回は『レッドカレー』だ！！」

　帆太が元気に注文すると２人分の『レッドカレー』が運ばれてくる。一番人気だが、この店で『一番』というのがどういうことかすぐに理解した。

（人外魔境の食べ物かしら）

　まゆらの知るカレーの色では無かった。食べてもいないのに辛さが肌を刺激してくる。

（でも食べないわけにもいかないし……）

　おそるおそるスプーンで掬って口に運ぶ。その瞬間、意識が爆ぜた。

「！？」

　あまりの衝撃に言葉が出てこない。代わりに全身から水分が、汗や涙や涎となって噴き出す。慌てて水を飲んだが、逆に辛さが増すような気がして全然役に立たない。それでも残すわけにもいかず、なんとか完食した。舌のしびれは収まらないし、疲労困憊だった。

　しかしこれで終わらなかった。
　次に訪れたのは、四川飯店『激虎』。ここで味わうのは秘伝の麻婆豆腐をメインみしたボリュームたっぷりのコース料理。美味しいのだが、そのいずれもが辛い。カレーとは別種の辛さと熱さが全身を貫く。
　かろうじて完食したが、もはやHP１状態。

　これで終わってほしいくらいだが、まだ続く。
　最後は、韓国居酒屋『チゲ太郎』だ。焼肉、キムチチゲ、ビビンバなど定番家庭料理は味も辛さもばっちり。しかし今のまゆらにとってその辛さは絶望的だった。終盤には辛さと熱さのあまり、意識が朦朧としてきた。

「服なんか着てられるか！」

　ついに限界を超えて服を脱ぎ去り、下着姿のまま暴走するように完食した。そして勢いのまま気絶した。後日公開された動画では、さすがに最後の部分は編集でカットされた。

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