オータムフェスタで、秋の装い｜リアクション

オータムフェスタで、秋の装い

●誕生日プレゼントを買いに

　梓智依子は、娘の楓と一緒にシーサイドアウトレットへ買い物しに来た。
「結構、人で混んでいるわね」
　オータムフェスタが行われていることもあり、アウトレット内は混雑気味だ。
　楓とはぐれないように気を付けながら、アウトレット内を移動する。
　10月で5歳になった楓はまだまだ元気いっぱいで、目についたもので興味をひくものがあればそこへ突撃しようとしたりするので、本当に大変だ。
　大変なこともあるが、元気な娘の姿を見ていると、この子を産んでよかったと思う。
　娘を身籠ったことを医師から告げられた14歳の誕生日。
　この時、智依子はこの子に出会うために今日まで生きてきたと思った。

　13歳の時、有名スタジオで一回り上のコーチに恋をして結ばれていなかったらどうなっていただろう。
　ダンスレッスンに励んだり、念願のプロダンサーになったり、世界を拠点にダンス活動したりと、いろいろできていたかもしれない。
　結果的には思い描いていた将来とは違う道を歩むことになったが、後悔はしていない。
　楓を生んでよかった。この子の成長を見届けたいと思う。
　感慨深く昔のことを思っていると、楓の姿が見えなくなった。
「楓、どこ！？」
　一瞬焦ったが、すぐにKIDDY,THE MOON LUCENT LIGHTに入り込んでいるのを見たのでホッとした。
「勝手に入っちゃ駄目でしょ。ママ、心配したんだから」
「ごめんなさい」
　シュンとなったと思いきや、楓はいつもの笑顔で店内を見渡す。
「お店の中を走っちゃ駄目よ」
「はーい！」
　美麗かつキュートなロリィタファッションを瞳を輝かせ「これかわいいー！」と大はしゃぎ。
（大きくなったらファッションに興味を示し、いろいろなお洋服を着たいというかもしれないわね）
　楓の様子を微笑ましく見ていた時。
「ママー、このおようふくかわいいよー」
「可愛いわね。楓に似合いそう」
　そんな母子の微笑ましい会話を耳にした店員が、楓に子供サイズのワンピースを勧めてきた。
　ふんわり柔らかなフリルのピンクのジャンパースカート風のワンピースを見て、楓はかわいい！　と大はしゃぎ。
　似合いそうねと勧められたワンピースを見た智依子は、タグに表記されていた値段を見て内心、驚いた。
（ブランドものというだけあって、結構なお値段だわ……）
　値段は張るが、5歳の誕生日プレゼントということでワンピースを購入。なぜか自分のもお揃いで。
　綺麗なママと可愛いお嬢さんの親子コーデと店員に褒められたので、智依子はちょっと恥ずかしくなった。
「おうちにかえったら、いっしょにおきがえしようね」
　誕生日プレゼント用にラッピングされた紙袋を抱え、楓はニッコリ笑って帰ってたら親子コーデしようと言い出した。

「絵本、買ってあげる。何がいい？」
「うーんとね……」
　ニャレッジヴァンガードで絵本を買うことに。
　たくさんあるので目移りしてしまう。あれもいいし、これもいいしと悩んでしまう。
　これ！　と楓が決めたのは、動物の子供達が無人島を探検するという冒険ものの絵本だ。
　表紙を見た時、智依子はどこかで見たような……という既視感に。

「ママ、ありがとう！」
　ワンピースと絵本を買ってもらった楓は、とても嬉しかった。
　帰宅するなり、おきがえ！　と楓がせがむので智依子もワンピースに着替えることに。
　親子コーデを済ませた後は、その恰好のまま絵本の読み聞かせ。
　買い物で疲れたのか、楓は読み聞かせの途中で眠ってしまった。
　楽しそうに眠る楓に毛布を掛けた智依子は、どんな夢を見ているのだろうと楓の頭をそっと撫でる。

このページにイラストを設定する