電車でいい旅！｜リアクション

電車でいい旅！

　ある土曜のまだ日も出ない早朝。
　旅鴉月詠は準備を整え、従者に告げた。
「遠出してくる。とりま箱根まで」
　今日明日と休みなので何も問題はない。
「箱根のどちらまで？」
「あてはないよ、全く」
「かしこまりました。いってらっしゃませ。お気をつけて」　
　頭を下げる従者に一言付け加える。
「まあ何かあれば連絡して。１日連絡なければ捜索願いだして」
　荷物は様々をろっこんでスケッチブック内に納めることができるので、肩下げバッグ１つだ。
　まだ門は閉まっているが、構わず守衛に挨拶し行先を伝える。
「車は出されないのですか？」
「足は不要。そういう気分なのだ」
　珍しいことではなかった。

「旅行日和だな」
　徒歩で星ヶ丘駅へ向かう。
　星ヶ丘駅から鎌倉へと向かう寝子電ホームへ。
「こうやって夜明けを見られるのが始発電車の魅力だな」
　カメラを取り出し、海と旧市街の写真を撮った。
　そうしているうちに、ホームにゆっくりと電車が滑り込んできた。
「車掌お疲れ様だ。行ってきます」
　見覚えのある車掌に声をかけて、空いた車内の席に陣取り、出発だ。

　鎌倉駅で降り、古民家をリノベーションした店に入って干物定食を食べながら寝子電を眺めた。
「朝の古都は風情があるな」
　食事後は再び電車に乗り、小田原を経由して向かうは箱根湯本。
　
　箱根湯本からは、登山電車で強羅へ向かう。
　『箱根八里』の発車メロディが流れる中走り出した電車は、最初こそ普通の電車のようだがどんどん山道を登っていった。
（座ったまま山の景色を楽しめるのはいいな）
　景色は様々に移り変わる。
　山の景色の近さは、まるで遊園地の乗り物に乗っているような感覚だ。　
　強羅からはケーブルカーに乗り、早雲山へ。
（車内が傾斜に合わせて階段状になっている。面白いな）
　
　早雲山でケーブルカーを下りると、そのままロープウェイの列に並ぶことになる。
（晴れていて良かった）　
　ケーブルカーに進行方向に向かって座り、景色を楽しむ。
　大涌谷駅で降りて、別のケーブルカーに乗り換えると、遠くに見える富士が綺麗だった。
　やがて見えてきた光る湖面は芦ノ湖だ。
　白い波を立てて海賊船が進んでいくのが見えた。
　桃源台に到着する。

「このまま芦ノ湖でキャンプしてもいいが」
　スケッチブックをパラパラめくっていた月詠だが、目当てのものが見つからず閉じた。
「次はキャンプセットを用意しておこう」
　パシャ。
　スマホを出し芦ノ湖の海賊船をバックに自撮りする。
　それから寮に現地点を送信した。
「絵は帰ってからでもいいのだ」
　芦ノ湖を見ながら、朝買ったおにぎりを食べる。

　
　帰りは逆順にロープウェイ、ケーブルカー、登山電車と進む。
「この場合は下山電車だな」
　箱根湯本で降りて、温泉へ向かった。
　温泉に浸かり、のんびり休憩しながら思い立つ。
「ふむ、寝子電の終電で帰るというのもいいかもしれない。明日の予定も特にないのだ」
　温泉を出ると、スマホで従者に連絡する。
「出迎え不要だ。門が閉まる時間だし守衛には連絡して」
　そして散策へ出かけるのだった。

　終電の寝子電。
　月詠は帰りのシーサイドタウンと星ヶ丘の夜景を写真に収めた。
　星ヶ丘駅に降り立ち、見知った車掌に声をかける。
「車掌お疲れ様だ。只今帰った」

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