ある物語の物語｜リアクション

ある物語の物語

秋の夜長の猫鳴館、鈴虫の鳴き声が耳に届く頃。
「小説を書こう」にオリジナルのファンタジー小説を載せている月原想花の作品は、現在停滞中だった。設定だけがあれこれ積み上がっているが、物語は何も進まない。そんな状況で、想花は中古のノートパソコンに向かいながら、さてどうしたものかと思案していた。
ちなみに場所は猫鳴館の暗い自分の部屋だ。当然だが、今ここには想花以外誰もいない。いないはず……というかいないに決まっているのに、ガサリと謎の物音がした。突然の妙な物音に、想花はビクついてしまう。ヘタレのビビリである想花には、この瞬間はたまったものではない。おそるおそる背後を振り向いて……我知らずぽかんとしてしまう。

（へ？　なんで？）

部屋の片隅にいたのは猫、ではなく。猫よりも大きい。虎と言えなくもないが、その背には翼が生えている。これは一概に言えばモンスター。１頭ではなく複数。それなのに、想花は一瞬恐怖を忘れて首を傾げてしまう。

（ここは寝子島で猫鳴館だよね？）

その間に部屋に現れたモンスターたちはざざっと前進し、想花を取り囲んでいた。

（なんでファンタジーに出てくるモンスターとかが出てくるのさ！）

想花はすっかりパニックになっていた。そのうちの１頭が虎のような唸り声を上げて、想花に襲い掛かってくる。

「うわああああああ――！！」

想花は思わず訳の分からないことを叫びつつ、両手を襲ってきたモンスターにかざした。すると――。
そのモンスターは断末魔の叫びを発することもなく、炎に飲まれじゅっと蒸発するように消えていった。炎自体は特に部屋に影響を及ぼすことはなく、モンスターと共に消えてしまっている。

「魔法が使えた！？」

モンスターへの警戒は解かないまま、今起こったことを思い返す。どうやら想花は意識せず魔法を叫んで、一瞬でモンスターを消滅させたらしい。なんだかわからないけれど、今の想花は魔法が使えるようになっている。
それに、と落ち着いてモンスターを観察する。

（このモンスター、よく見たらぼくが今書いてる小説に出てくるモンスターじゃないか！　ということは……）

やっぱりなぜかはわからないけれど、想花が今書いている小説の世界が現実に混ざっているようだ。それなら、天空魔導士としての力が使えるかもしれない。
天空魔導士とは、書きかけになっている小説の主人公のジョブだ。

（ええっと……）

設定した天空魔法を思い起こす。その中でもさっき無意識に叫んだような攻撃魔法を。

「天の裁きを受けよ！」

モンスターが消え失せる。想花を脅威と認識したのか、残った他のモンスターたちがじりじりと後退する。襲われる危険は薄らいだ気がするが、部屋の外に逃げられては困る。

「逃がさないよ……！」

今度は単体ではなく範囲指定のある魔法を使った。残った複数のモンスターが次々と風に呑まれて消滅した。モンスターが消えてほっとしつつ、想花は今の感覚を忘れないようにと、机に向かう。

（なんか、いいネタを思いついた！　かも？）

このページにイラストを設定する