私があなたであなたが彼で？｜リアクション

私があなたであなたが彼で？

〇紗月←→理緒

　夏休みが終わり、木天蓼大学では授業の始まっていましたが、佐和崎紗月は秋葉原のソフニャップにいました。
　成り行きでグラドルデビューして以来、なんだか急に人気が出てきて、いまだに戸惑っている人見知りな紗月。
　この日は初めてのイメージソフトのプロモーションを行っていたのです。
「紗月ちゃん、もっとこう、腰をひねってみて！」
　白いタイサイドビキニ（横で結ぶ紐水着）を着た紗月に、取材陣からは遠慮なくセクシーなポーズの注文が飛びます。
（……やっぱり慣れないわ）
　笑顔がひきつってしまわないように、恋人の初瀬川理緒のことを考えることにしました。
（今日は理緒ちゃん、大学で授業受けてるはず。確かフランス語の授業だったよね。大丈夫かな……）
　勉強嫌いの理緒のことを心配していると。
（眩しい！）　
　焚かれたフラッシュが強すぎて、紗月は一瞬目を閉じました。

（……あれ？）
　目を開くと、見覚えのある教室でした。
　慌てて自分の体を見ると、今まで着ていた水着ではなく服を着て机に座っています。
（なぜ私、大学にいるの？）
　手元に広げられたノートの文字を見て、紗月は息を飲みました。
「これ……理緒ちゃんの字？」
　それに、傍らに置かれたバッグ。
　間違いなく、理緒のもので……紗月の頭にある考えが浮かんだ時。
「理緒、どうしたの？」
　とどめに、隣にいる子がそう聞いてきたのです。
「う、あ……授業、退屈だなーってボーっとしてた」
　とりあえずごまかしながら、紗月は確信しました。
（私……理緒ちゃんと入れ替わってる？！）
　こうなれば代わりに授業を受けるしかない、と思いましたが。
（入れ替わりがばれたらどうしよう、言い訳できる気がしないわ……理緒ちゃんは私より撮影慣れてるから大丈夫だと思うけど……もしかしてボロを出しちゃう可能性も？）
　気が気でない思いで、授業が頭に入ってこないのでした。
（この状況、いつまで続くのかしら？　ずっとこのままってことはないわよね？）

　理緒は第二外国語のフランス語の授業に出席していました。
（眠い……）
　とはいえ、昨日もグラドルの仕事で疲れていたので、先生の意味のわからない音楽のようなフランス語を聞いていると、ついうとうとしてしまって……。

（え？）
　眩しさに目を開けると、なぜか目の前に取材陣がいました。
　あたりを見回すと見覚えがある場所です。
（青・白の市松模様にロゴをあしらった壁面……秋葉原のソフニャップね）
　写真集やイメージソフトを手に宣伝したり、セクシーポーズを決めたりという、プロモーション活動を行う場所です。
（あれ？　夢の中でまで仕事してんの？）
　いくら授業が嫌とはいえ、そんなに仕事が好きなのか、と我ながら呆れそうになりましたが。
「紗月ちゃん、もっとセクシーに決めてみて」
　という声が飛んできて。
（へ？）
　一瞬驚いた理緒でしたが、手に持っているＤＶＤがこの前発売となった紗月のものであることに気づきました。
（まさか）
　髪をかき上げるふりをして頭の後ろに手をやると、あるはずのものが手に触れません。
（ポニテがない……セミロングじゃん）
　そして理緒は恋人の紗月の予定を思い出します。
　今頃、ソフニャップで初めてのプロモーションをしているはずで……
（うそ……紗月になっちゃった？）
　髪をかき上げたポーズのまま、真顔で理緒……外見は紗月、は固まりました。
「いいね！」
　それが結果的にカメラマンの要求に答える格好となったようで、一際フラッシュが激しく焚かれ。
（夢じゃないってことは、また神魂の仕業なのかしら？）
　ようやく気付いた理緒は思います。
（ここでドジを踏んだら紗月に恥をかかせちゃう）
　不自然にならないよう紗月の表情を思い出しながら、何とか似せようと頑張りました。
「いいね紗月ちゃん、初めてとは思えないよ！」
　取材陣の声が飛び。

　キーンコーンカーンコーン。
（……あれ？）
　気が付いたら、大学の教室でした。
　また自分の体に戻っていることを確認して理緒はほっとします。
「ポーズを取ったまま戻ってこなくて良かったわ」
「どうしたの、理緒？」
「なんでもない～」　
　隣の子をごまかしながら。
（後で紗月と一緒にプロモーションを見てみなきゃ。楽しみだわ）
　撮影に戻ったであろう紗月の健闘を祈る理緒でした。

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