私があなたであなたが彼で？｜リアクション

私があなたであなたが彼で？

〇智依子←→楓

　その日梓智依子は、寝子高で授業を受けていました。
（今頃、お昼寝の時間よね）
　ふと時計を見て、幼稚園にいる娘のことを思います。
　普通の女子高生に見えますが智依子は、14歳で子供を出産し、今は4歳の娘を持つシングルマザーでした。
（楓は気持ちよく眠っているのかな？）
　そんなことを思ったせいか、眠気を感じて、軽くあくびをしました。

（……はっ？！）
　智依子は目を開きました。
（え？　私、居眠りしてた？）
　なんだかおかしい、と気づきます。
（教室じゃない？　ここは……？）　
　見覚えのない天井。というか、机がなく智依子は布団に横になっていて、その布団もなんだか小さいような……
（え、体が小さくなってるの？　なんだか、子供のころに戻ってしまったみたいな感じ）
　自分の手を見ると、明らかに小さな子供の手で。
（夢なの？　こんなにはっきりしてるのに……この手、知ってる……）
「楓ちゃん、もう起きちゃったの？」
　誰かにやさしく声をかけられ、智依子ははっとしました。
（楓……って、まさか？　私、楓になっちゃったの？）
　どうにも信じられない思いですが、よく見れば確かにこの部屋は、楓の通っているこばと幼稚園の教室でした。
　楓になった智依子は、もう一つ大事な問題に気づきます。
（待って。それじゃあ、楓は今どこに……？）

　そのころ、寝子高では。
「あれ？　ここはどこ？」
　母親（智依子）の身体に入れ替わった楓が、きょとんと教室を見回していたのでした。
「おいおい梓、寝ぼけてるのか？」
　担任の若杉勇人先生が突っ込み、クスクス笑いが起こって、楓はどうしていいかわかりませんでした。
「疲れてるならしょうがないが、寝言は言わずに寝てくれよ」
　先生はそう言って板書に戻りましたが。
　キーンコーンカーンコーン♪
　折よく授業終わりのチャイムが鳴ったのでした。
　
　休み時間。
「梓さん、どうしたの？」
　クラスメイトが聞いてきました。
「わたし、あずさかえで！」
　楓は、とりあえず自己紹介しました。
「え？　楓ちゃんって娘さんの名前よね？」
　クラスメイトは狐につままれたような顔をしましたが。
「何、楓ちゃんの物まねなの？　仲がいいわねえ」
　娘の真似をしているのかな？　と思われたらしく、それ以上突っ込まれることはありませんでした。

　一方、こばと幼稚園の智依子は。
（楓はどこへ行ったのかしら）
　と気が気でない思いでした。
（まさか私の代わりに学校に？　どうしよう？　困って泣いてないかしら……知らないところに来てびっくりして学校を飛び出しちゃうかも）
　心配ですが、どうにかしようにも打つ手は思い当たりません。
（先生に相談……しても、本気にされないわよね）
「かえでちゃん、いっしょにあそぼう！」
　焦るうちに、男の子に声をかけられて。
「えっ？　うん……」
（遊んであげないと、変に思われるわよね……あの子どんなふうに遊んでいるのかしら？）　

　園庭で始まったのは、鬼ごっこでした。
（これならあまりしゃべらなくて済むから、良かったかも）
　そう思いながら走り出すと、体は軽いもののなんだかバランスが悪くて、調子が出ません。
（子供の体って慣れないわね……でも、そう簡単に捕まらないわよ）
　いつの間にか本気になって鬼から逃げていましたが、鬼の男の子は結構足が速いようです。
（あっ、捕まる！）
　一瞬目を閉じた次の瞬間。

（あら？）
　男の子も園庭も消えて、智依子は寝子高の教室にいました。
（元に戻った？）
　次の授業が始まっているようです。
　ほっとしたものの、新たな心配が湧いてきます。
（楓、ここで何かやらかしてないかしら……）
　クラスメイトや先生は普段通りに見えましたが、授業が終わるまで智依子は落ち着かない時間を過ごしたのでした。

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