氷がない！夏の動物園、けもの暑暑危機一髪！｜リアクション

氷がない！夏の動物園、けもの暑暑危機一髪！

　寝子中１年の佐藤瀬莉は、星ヶ丘の自宅でねこったーのタイムラインをぼんやり眺めていた。
「え、動物園で氷募集？」
　ツイートを見かけて、瀬莉は考える。　
（今日は物凄く暑い……いや、夏だから暑いのは当然だけど、それにしても今日の暑さは格別）
　瀬莉の父は投資ファンド代表で有数の資産家だ。
　大切に育てられた一人娘の瀬莉はお小遣いには不自由しない。
　そんなわけで瀬莉は、サマーワンピースに、けも耳のカチューシャをして向かった……氷屋へ。

「氷をください。トラック一台分」
　他の町でなら子供がこんなことを言っても苦笑され相手にされないだろうが、ここは星ヶ丘。
　お金持ちの御令嬢は珍しくない。
　フラワーコーディネーターの母と一緒に訪れたこともあり、氷屋の店主は瀬莉を覚えていた。
　カードで決済を済ませた瀬莉に店主のおじさんは尋ねる。
「毎度ありがとうございます、お嬢さん。どちらへお運びしましょう？」
「またたび動物園までお願い。私も助手席に乗せてくれる？」
「かしこまりました」
　助手席に乗り込んだ瀬莉はスマホを取り出し、動物園に連絡した。
「佐藤と言います。これからトラック一台分の氷を搬入するので準備宜しく。裏口から回ればいいのね？」

　ほどなく瀬莉と氷を乗せたトラックは動物園の搬入口に到着した。
「こんなにご寄付いただけるんですか？　ありがとうございます」
　頭を下げる動物園の園長に瀬莉は言った。
「まずは白熊のところへ、余った氷は他の動物のところへ持って行ってもらえればいいかな」

　大人たちと別れ、瀬莉は改めて入場口から入園する。
　けも耳カチューシャのおかげで、入場料が半額になった。
「この前生まれたホワイトタイガーの赤ちゃんのところへ行ってみよう」
　猛獣エリアのホワイトタイガーコーナー。
　大きいのが母虎の白梅。それから４頭の子虎たち、白夜（はくや）、白桜（はくおう）、雪（ゆき）、メリエル。
　さすがに公開当時のように整理券が必要ではないが、やはり人気だ。
　日陰でぐたっとのびていた虎たちは、氷が運び込まれると飛び起きて氷の元に駆け寄った
　母虎と４頭の子虎たちは、氷をなめたりひっかいたり、顔をすりつけたりと思い思いに、気持ちよさそうに楽しんでいる。
「この前見た時よりも大きくなってるけど、やっぱりかわいい」
　満足した瀬莉は、他の動物たちも見に行くことにした。

　一通り動物たちを見て、氷をもらう様子を眺めて満足してから、瀬莉はフードコートへやってきた。
　こちらにも氷が運び込まれていた。
　メニューを眺めた瀬莉は、財布から現金を取り出し、冷やし中華を注文する。
　普段親と外食するときは星ヶ丘の高級レストランだけれど、暑い中の冷たいものはどんな高級料理にも負けない。
　リーズナブルな冷やし中華を食べる瀬莉は、満足そうに微笑んだ。
（このいかにもチープな味がいいんだよね）
　

　動物園を一通り見て、空になったクーラーボックスを下げた千恵が、かんなに話しかける。
「象も虎もすごかった！　かんなちゃんは何がよかった？」
「そうだなあ、やっぱり白熊？　飼育員さんに襲い掛かってるのが面白かったし。氷もらってからの態度変わりすぎ」
「あー、そうだねえ」
　他の子たちも話に加わり、帰り道も楽しく盛り上がる小学生たちだった。

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