氷がない！夏の動物園、けもの暑暑危機一髪！｜リアクション

氷がない！夏の動物園、けもの暑暑危機一髪！

　ねこったーで状況を知った寝子高３年の八神修は、反射的に猫ペンダントを掴んだ。
　大切な人と一緒に作った、首に赤いルビーをつけた猫のペンダント。
　何故今掴んだのか？　それは修にもうまく説明できないかもしれない。
　心が動くとき、修の思いは大切なあおいと共にあるのだ。

　修は部屋を出て、冷凍庫の氷を保冷箱に全部詰める。
「自転車……いや、早く行くには」
　修はスマホで運転手の風間を呼びだした。
「お呼びですか」
「またたび動物園に氷を持って行く。途中コンビニで補充もしたい」　
「了解」
　すぐに風間が車を回してくれた。

（あおいに会えるかも）
　そんな予感があった。
　動物園に近づくと、見慣れたツインテールの後ろ姿が見えた。
（来てくれたんだな)
　喜びの中、修は呼びかける。
「あおい！」
「修君！」
　振り向いたあおいの胸には、修と共に作った猫ペンダント。
　それは更に修の喜びを倍増させた。
「俺も、ほら」
　修も首から下げたペンダントを見せた。
　見つめ合った二人は少し照れた顔になる。
「もしかして修君もねこったーで？」
　あおいは手に保冷バッグを下げていた。
「ああ。シロクマ達を助けたい。日本の夏は彼等には酷だから、少しでも快適に過ごして欲しいんだ」
　あおいを乗せ、車は動物園へ到着した。

　受付で持参の氷を渡した後、修は係員に言った。
「管理室に連絡させてほしいんだ」
「管理室ですか？」
「ああ、フードコートの氷の使用許可が欲しい。カキ氷に使うからたくさんあるはずだろ」
「さすが修君！　そうだね、フードコートなら氷があるものね」
　あおいが感心する。
　係員の仲介で管理室に連絡し、フードコートには管理室から連絡を入れて貰うことになった。
『じゃあ、飼育員をフードコートへ……』
「いや、よかったら手伝いますよ。猫車を貸してもらえるかな」
「猫車？」　
　きょとんとしているあおいに説明する。
「一輪車とも言うね。檻内掃除で必ず使うから有るはずなんだ」

　修は、フードコートで氷を貰い猫車に積んだ。
「暑い……すぐに溶けちゃいそう」
「あおい、走ろう！」
「うん！」
　修とあおいは、猫車を押しながら白熊の檻へと走り出した。
　日陰で母白熊グリフと子熊のヒースが、催促するように前足でリズミカルに床をたしたしと叩いていた。
「さっきの氷はあっという間に溶けちゃったからな、どうしよう……って、持ってきてくれたのかい？　ありがとう！」
　飼育員の白野が歓喜の表情で出迎えてくれた。
「よかったら氷の設置を手伝います」
「ありがとう、それじゃ手伝ってもらおうかな」
　修は白野と共に氷を猫車から下ろし、大きい氷を白熊のプールに入れたり、熱い床に設置したりした。
「扇風機を出して貰えますか？　檻の外から送風すれば涼しいと思います」　
「ああ、そうだね」
　休憩から戻ってきたもう一人の飼育員熊野が、扇風機を出してくれた。

　修は、ご機嫌な様子の白熊親子を見守る。
「よかった、元気そうだ」
　安堵していると、両手にペットボトルを持ったあおいが戻ってきた。
「修くん、おつかれさま」
　冷たい飲み物差し出してくれたあおいに、修は顔をほころばせる。
「有難う。ちょうど喉が渇いたところだった」
　飲み物を受け取ってから、思わずもう片方の手であおいとハイタッチする修。
「シロクマにとっての氷は、俺にとってのあおいだな」
「えっ？　私そんなに冷たい？」
「いや、温かい。とっても」
　冷たい飲み物を持って少しだけ冷えたあおいの手は、ちょうどいい心地よさだった。

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