最っ高に○○○！｜リアクション

最っ高に○○○！

椎井莉鳥は足を伸ばすストレッチをしていた。これから臨むのは関東高等学校競技大会だ。インターハイ南関東ブロック予選である。
　群馬の競技場にて、莉鳥は準備体操に余念がない。
グランド内を見回すと時々他校の選手と目が合う。そこで莉鳥は気づく。
（私もちょっとした有名人てことね）
　大会で新記録を叩き出したのだ。知れ渡っていてもおかしくはない。
（気にしたら走れないわ）
こちらを見ている数人から視線をそらし、今度は足首と手首を回す体操。それから短い距離を走り込む。
と、遠くで歓声が上がった。記録を更新したようだ。
（集中）
息を吸ってゆっくり吐く。
自分の番が来た。
　スタートラインに立ち、深呼吸。ゆっくり吸ってゆっくり吐く。一度閉じると周辺のざわめきが遠くに感じる。
　目を開けると、ずっと先にバーが見えた。相変わらず遠くで人の声がするが、やがて静かになった。意識を前方に固定する。
（！）
　走り出した。バーまでの距離、歩幅を合わせる。それでいて、飛ぶようにテンポ良く。
　いつもより、浮遊感を覚えた。リズムを全体的に刻む。
　第二マーク、スライドを取り、重心を落とす。体勢内側に傾ける。一歩、二歩、三歩最後に地面を蹴る。

高さは1ｍ70ｃｍ。

視界がぐるりと回転したかのような錯覚、そして真っ青な空が目の前に広がった。莉鳥はバーに邪魔されることなく綺麗なフォームで、マットへと飛びこんだ。ボフッという音と共に着地した。
　体を起こすと、部員達が歩み寄ってくる。
「椎井さん、記録記録！」
「新記録じゃん、マジかよ」
　昂奮する皆を見回して、
「頑張って練習した甲斐があったわ」
　微笑む。
莉鳥は小さく拳を握りしめた。
（やった！）
自分自身としては絶対に口にしないであろう、言葉を心の中で呟いたのだった。

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