保健室ではお静かに / 休み時間の過ごし方｜リアクション

保健室ではお静かに / 休み時間の過ごし方

●禁断の花園

　「いった……っ」

　剣道部での活動中、響蒼留人の足に痛みが走った。体勢が崩れたのを持ち直そうとした時にひねったようだ。普段ならこのような事にはならないが、おそらく球技大会の疲れが残っていたのだろう。

（俺としたことが……不覚）

　情けなく思いながら軽く足を撫でてみる。少し痛む程度で歩けないこともない。だが念のため保健室に行くようにと先輩たちに促され、武道場を後にした。足を引きずりつつ校舎内を進み、保健室の前にやってきた。

「鷲尾先生いますか？」
「いるわよ。……足、どうしたの？」

　鷲尾礼美先生は蒼留人の様子を見て、そう問いかけた。

「剣道で足をひねっちまって……歩けるから大したことはないと思いますが、念のため手当てしてもらうよう言われました」
「そういうことね。まずは座って。いま手当てするから」

　蒼留人は言われるままに椅子に腰かける。先生は手当てに必要なものを準備し始めた。その様子を蒼留人はぼんやりと眺めていたが、視線は気づけば胸元に寄っていた。

（……うちの顧問の島岡先生より胸が大きいな。それにすごい色気だ……）

　自分自身の目線がどこに向いていたか気づくと、蒼留人は思わず慌ててしまった。動揺を顔に出さないように努力するが、それに気を取られて、ひねった足に体重をかけてしまう。

「痛っ……！！」

　反射的に上げてしまった声を無理やり抑え込む。先生はその声に驚いて、湿布などから目を離し彼のほうをみた。
　
「大丈夫……？　そんなに痛むなら病院に」
「す、すみません大丈夫です」

　彼女の言葉を遮るように精一杯アピールする。理由が理由なだけに本当のことを言うわけにもいかない。

（２人っきりだと気まずいな……）

　治療に必要なものを整えると、先生は慣れた様子で手当てをする。
　ものの５分程度で治療は終わった。ただ、座る蒼留人の足元で先生がずっと手当てをしていたので、その胸元を見ないようにずっと気を付けていた。

（めちゃくちゃ時間が長く感じた……ほんとに５分か？）

　色々な感情を込めたため息を吐く。
　
「これでよし、と。一人で帰れる？」
「……家は桜花寮ですし、帰れます」

　蒼留人は礼を言って帰ろうと立ち上がる。しかしすぐに歩かない方がいいと言われて、すっと座りなおす。　

「待ってね、いまお茶を淹れるから」
「あ、ありがとうございます」

　蒼留人は相変わらず目のやり場に困っていた。

（気づくと礼美先生のほうばかり見てしまう……かといって露骨に目を逸らすのも……）

　そのうち他の生徒がやってくる。先生はどの生徒にも優しく接し、手当てを行う。男子が来たら彼女の色気にデレデレしているようで腹が立つ。しかし女子が来たら、今度は彼自身がそう思われているような気がして落ち着かない。

（保健室……一見楽園だが、なるべく来ない方がいい禁断の花園だな）

　淹れてもらったお茶をすすりながら、そんな風に思う。
　やってきた生徒たちが全員帰って、また２人きりになってしまった。

（間が持たねぇ……）

　何か話題はないかと思い出しながら、話を振る。

「そういえば、こないだ花と緑の博覧会がありましたね」
「華やかな催しだったわね」
「俺は無料ドリンクもらったり、薔薇で帽子を作ったりしました」

　なんだかんだ話は続き、いつのまにか足の痛みも落ち着いてきた。蒼留人は先生に感謝しつつ、帰路についた。

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