保健室ではお静かに / 休み時間の過ごし方｜リアクション

保健室ではお静かに / 休み時間の過ごし方

●過去と今の境界線

　朝。
　椎井莉鳥は陸上部の朝練に行くために早めに家を出た。空は晴れていて、太陽は木々の緑を照らしている。しかしそんな景色とは対照的に、彼女は起きてからどうも調子が悪い。早起きして行った朝練にも身が入らず、妙なだるさが体を引っ張る。

（……まさか、風邪でも引いたんじゃないでしょうね？）

　しかし倦怠感の正体は分からないものの、早退するほど辛いわけではない。
　莉鳥は朝練を終えてから教室に向かい、いつものように一時間目の授業を受ける。
　チャイムが鳴って授業が終わる。だが、莉鳥はこの授業の内容を覚えていないし、思い出せなかった。

（妙な気怠さが気にかかって、どうにもやる気が起きないというか……）

　これは流石に放置するわけにもいかないと感じた彼女は、次の授業が始まる前に保健室へ向かう。そこには養護教諭の鷲尾礼美がいて、なにか書類に目を通していた。先生は莉鳥に気づくと声を掛ける。

「どこか具合が悪いの？」
「朝からちょっと……」

　莉鳥は朝から今現在までの状況を簡単に説明する。

（とりあえず頭痛薬でも貰って、それを飲んだらさっさと授業に戻ろう）

　そう思っていた彼女に、先生は薬を出す代わりにこう言った。

「……少し休んでいったら？」
「え？」

　予想外の言葉に莉鳥は少し戸惑ってしまった。

「最近の椎井さん、どこか根を詰めているような気がするわ」

　そんな指摘をされて、表には出さないが内心では動揺していた。莉鳥はどうすればいいのか分からず、固まってしまう。保健室は沈黙に包まれていた。先生は莉鳥が話し出すのを待っているように思える。莉鳥もしばらく無言だったが、ぽつりぽつりと話し始めた。
　
　幼馴染で元カレの腐れ縁のこと。自分の初めてを捧げたアイツのことを。
　しかし彼は京都の大学へ進学して寝子島を離れた。だからこれで完全に関係は終わった。
　もっとも、卒業前にあの神社で完全に終わってはいたけれど。
　それなのになぜ苦しい思いをしなければならないのか。
　なぜこんな思いを抱かなければいけないのか。

　たどたどしく、記憶の欠片をつなぐように言葉を続ける。知らぬうちに涙が流れ、泣きながら話した。

「どうして……忘れてくれないの……」

　先生は何も言わず、ずっと莉鳥の話を聞いていた。涙が落ち着いてきた頃に、先生はベッドで休むようにと提案する。話し疲れた莉鳥は、先生の言葉に従ってベッドで横になり、昼過ぎまで眠った。

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