小学校に実習生がきたよ！｜リアクション

小学校に実習生がきたよ！

☆４年２組

「今日は実習生が来るんだって」
　そんな話が聞こえてきて、森篠奏子はセミロングの髪を揺らして思いを巡らせました。
（どんな先生がくるかな）
　適当に予想しようとすると、去年の時の実習生が思い浮かびます。
　去年の先生は教師になるよりお笑い芸人になったほうがいいんじゃないか、と思うくらいに笑わせにきて、ちっとも授業にならなかったのです。
(まあ、その方が授業が実質潰れていいんだけどね。そのせいで担任の先生に睨まれてたなー)
　あの先生、その後教師になれたのでしょうか。
　と、そんなことを考えているうちに、朝のホームルームの時間になり。
　担任の先生に続いて入ってきた実習生の人に、教室内に静かなざわめきが走りました。
（優しそうだけど、イケメンには程遠いわね……）
　第一印象はそんな感じでした。
　先生が黒板に名前を書きます。
「今日から実習生として皆さんと一緒に勉強することになりました、右近福神（うこん　ふくじん）と言います。何か質問はありますか？」
　クラスメイトたちが目を輝かせて手を上げました。
　奏子もその一人です。
「それじゃ、森篠さん」
　うまく指名されたので、奏子は元気よく立ち上がり質問しました。
「先生、彼女いるー？」
　まずは定番ネタです。
（最初のこの質問にどう答えるかで教師としてこの実習生は教師向きかそうでないかわかるよね……）
　というメンタルテストを行っているつもりなのです。
　とはいえこの先生に訊くのはちょっとかわいそうかな、と思ったりもしたのですが。
　少し黙って考えた先生は、意外にも元気に答えました。
「いるよ。とても素敵で、先生に元気をくれる彼女が」
　おお、とクラスのみんなが目を見張りました。
（これは……けっこう、向いてるのかな？）
　実習生の先生の声も表情も、やる気に満ち溢れていました。

　休み時間に子供たちに囲まれた先生は、
「みんなは、食べ物は何が好きかな？」
　と質問を振り、子供たちの答えにうんうん、と聞き入っていました。

　しかし、４時間目に実習生の先生が授業をすることになると。
「あ、教科書忘れた……ごめん、取ってくるよ」
　と慌てて廊下に出ようとして戸口に頭をぶつけたり。
　黒板に文字を書こうとしてチョークを折り、どこへ行ったか探そうとして眼鏡を落っことしたり。
　と、ギャグも言わないのに子供たちの失笑を誘う有様でした。
（こんなにドジだなんて思わなかったよ）
　奏子は呆れてしまいました。
（去年の実習生の先生って、実は優秀だったのかも？）
　担任の先生の助け舟のおかげもあって、授業はなんとか順当に進みましたが、実習生の先生はすっかりしょげている様子でした。

　そんな大変な授業も終わり、給食の時間。
　給食が運ばれてくると共に、カレーのいい匂いが漂ってきました。
「今日の給食はカレーか！」
　すると、実習生の先生はなぜか急に元気になりました。
「カレーは人を元気にしてくれるんだ。たくさんのスパイスが入っているんだよ」
　カレーにについて熱く語り始める先生の様子に、奏子もみんなもあっけにとられました。
「実は……先生の実家はカレー屋なんだ。……ついでに白状すると、さっき彼女がいるって答えたけど、あれ、人間じゃないんだ。うちの実家の特製カレーのことなんだよ」
　ちょっと恥ずかしそうに言う先生。
　給食が終わるまで、先生のカレー語りは続いて。
（先生と実家のカレー屋さんのこと、帰ったらお姉ちゃんに教えてあげようかな）
　そんなことを思う奏子でした。

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