『居酒屋　ぐでねこ』で宴会を｜リアクション

『居酒屋　ぐでねこ』で宴会を

●お酒はほどほどに

　夕方。
　大学の講義を終えて、佐和崎紗月と初瀬川理緒は帰路につく。講義で出された課題や最近の出来事を話していると、突然声を掛けられた。

「そこのお２人さん、一杯どうです？」

　振り返ると、そこには二本足で立つ猫がいた。あまりに自然な様子で立っているので、紗月は一瞬混乱した。

「あの、私たち未成年なので……」

　紗月は猫が話しかけてきたことに戸惑いつつも、未成年であることを理由に断ろうとする。しかし理緒は猫の話に乗り気だった。

「え？　猫の居酒屋？　なにそれ面白そう」
「理緒ちゃん？」
「ねえ、紗月行こうよ！」
「でも……」
「大丈夫大丈夫、きっと楽しいところに決まってるよ！」

　結局、理緒を制止することはできず、紗月は半ば強引に連れていかれることに。猫は嬉しそうに２人を案内する。その先には『居酒屋　ぐでねこ』と書かれた赤提灯を掲げた店があった。外観は一般的な居酒屋と大きな違いは無いように感じる。

　中に入ると、盛況なようで賑やかな様子が伝わってくる。２人はカウンター席に座ると、荷物を下ろした。店内も普通の居酒屋と変わらない。けれど客も店員もほとんどが猫だった。奥の小上がりでは『ねこ』の一団が宴会をしているらしく、複数の笑い声が聞こえてくる。

「お２人は何を注文しますか？」
「え？　えっと……」

　紗月は店の奥に気を取られていて、店員の猫がやってきたことに気づいていなかった。注文するものを理緒とあれこれ相談しながら、ひとまずオーソドックスなおつまみとソフトドリンクを注文する。
　しばらくして運ばれてきた料理はどれも美味しく、満足いくものだった。そして理緒は猫を膝の上に乗せて、ゆっくり撫でながら可愛がる。

　充実した時間である。
　しかし理緒はだんだん物足りなくなってきた。メニューを見てみると『マタタビ酒』というのがある。どうやら看板メニューらしい。さっそく注文しようとしようとしたら、紗月に阻止された。

「だめだよ、理緒ちゃん！」
「一杯だけ！　ね？」
「だめ！」

　そんなやりとりを何度も繰り返し、先に折れたのは紗月だった。

「……一杯だけだよ」
「ありがとう！」

　理緒はさっそく『マタタビ酒』を注文する。運ばれてきた酒を呑んでみると、フルーティで爽やかな印象を受けた。しかしアルコール度数は高くないようだ。かなり弱めの酒なのかもしれない。

「うーん、あんまりアルコール強くないなー」

　そう言いながら３杯ほど飲んでしまった。

「一杯だけって約束したのに……」

　紗月が止めに入ったが、すでに遅かった。
　すっかり酔いが回った理緒は笑い上戸になり、陽気に騒ぎ始めた。居酒屋という雰囲気も相まって、酔いが加速したのかもしれない。膝の上で可愛がっていた猫を頭に乗せて歌いだし、さらに踊りながら奥の小上がりへ向かう。

（あっちはいま宴会中……！）

　紗月は慌ててその後を追う。
　宴会をしていたねこの一団に理緒が合流すると、先ほど以上に大騒ぎの大暴れ。

「なんか体が熱くなってきたな……」

　理緒は服に手をかけて脱ごうとする。流石に紗月が強引に止めに入る。しかし理緒が収まることはなく、紗月にもマタタビ酒を飲ませてくる。酔うほどのアルコールではないが、場の雰囲気と合わさって紗月まで巻き込まれた。
　変な笑い声をあげたり、猫と戯れたり、サラリーマン猫の一団と盛り上がったり。このときの様子は一言でいえばカオスだった。

　状況が落ち着いたのは、それからしばらく経ってからだった。

（……これは、黒歴史……）

　紗月は心のなかでぼそっと呟いた。

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