羊がたくさん、めぇめぇめぇ｜リアクション

羊がたくさん、めぇめぇめぇ

　美野梨はまず、周囲にいる羊達においでおいでと手招き。何かくれるのかなー？　と興味の湧いた羊は美野梨の方へと向かい、こてんと座る。
　何も渡さないのは礼儀に反するかなと思った美野梨は、天野から預かっておいた餌をあげた。餌だ餌だと嬉しそうな羊は何も疑うことなくガツガツと食べ始め、そのまま美野梨に撫でられ始めた。
「よーしよし、いい撫で心地ね。……良い子だから、実験に協力してちょうだい？」
　眼鏡がキラリと光ったようにも見えたが、羊達はそんな美野梨の様子には気づかない。ここからが生物部部員の本領発揮だと言わんばかりに、美野梨は眼鏡の縁を指で押し上げる。

　生物部部員の本気は、すごかった。羊達はめぇとしか喋らないが、後にそう語る。
　撫でられて気持ちいいポイントを抑え、緩急をつけた撫で方。
　そして一番は、かゆいところに手が届いてる！　というところ。

　こんなにも気持ちよくされてしまっては、協力せざるを得ない。羊達は言葉を発することなく、ごろりと横たわる。
　複数の羊達が転がってしまったことで、合流地点までどうやって運ぼうかと悩んだ美野梨。流石に１人では運べないので、ぺちぺちと羊達の顔を叩いてはお願いを申し出た。
「向こうなら、どれだけ寝転がっても大丈夫だから歩いてくれないかな？」
「めぇ～」
「めめぇ～」
　そのお願いの言葉と同時、羊達はそれぞれ鳴いてから合流地点へ歩き出す。
　まだ羊の数が足りないため、一度羊達を撫でて寝転がせた後にまた別の羊を探しに行った。

　一方の天野はそれぞれの羊の特徴をよく見て、毛を褒めて角を撫でて餌をあげてと忙しかった。
　羊達の毛に埋もれてみたい天野にとって、この作業は苦でもない。むしろ、それで仲良くなれるのなら進んでやりたい！　というところ。
「君は毛並みが良い子だね。こんなにもこもこしてるのは、元気な証拠だよ」
「めぇ」
「おっ、君の角は美人さんだね？　凄いなぁ、とても綺麗だよ」
「め……」
　褒められたり撫でられたりする羊達は、天野の言葉で照れてしまった。天野を頭で小突いたり、顔を隠したりと照れ隠しする羊が多い中、これは仲良く慣れただろうと天野は確信する。

　美野梨との合流までに多くの羊を集めた天野は、彼女が戻ってくる前に少しだけたくさんの羊に埋もれてみようと、集めた羊達で輪を作ってみる。
「ふわぁ……幸せだなぁ……」
　輪の中心部に入り、ちょっとしゃがめば目の前はもう毛の海。羊に囲まれる幸せを噛み締めている天野だが、ねむねむパワーのことを忘れてはいけない。
　彼はゆっくりと沈むと、すやすやと眠りについてしまう。その様子は顔には出てないが幸せだとわかる。
「……あらあら」
　合流した美野梨は、そんな天野の様子に少し微笑んで見ていた。よかったね、と言葉を漏らすほどに。
　だがここで深い眠りに入っていては事件が解決しないので、ゆっくりと天野を起こす。普段から睡眠時間が短めな天野にとっては、良い眠りだったようだ。

「さて、それじゃあお礼をしなくちゃ。夏の時期にもこもこしてるの、君たちも大変でしょ？」
　そう言って天野は毛刈り道具を使い、美野梨の指示通りに毛を刈ってみる。
　上半身だけ、下半身だけ、お腹の部分だけ、背中の部分だけ、首の周りだけ……様々な刈り方で毛を刈り取ってみる。
「ふむふむ……どうやら一部分の毛が刈られた時点で、放出が出来なくなるみたいね？」
　美野梨の研究の結果、ねむねむパワーは一部分でも毛が刈り取られれば放出が止まるようだ。現に、一部分を刈り取っただけの羊を放してみても、住民達は眠くならない様子。
「この毛、持ち帰っても大丈夫そうなら持ち帰ってみようかな？」
「私もちょっと、研究してみたいし持ち帰ろうかな？」
　刈り取られた毛からはねむねむパワーの放出は見られなかったため、毛を持ち帰ることにした２人。
　また、天野は羊達も連れ帰ってみようと考えており、そのまま羊達を説得。数匹は天野についていくことにしたようだ。

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