羊がたくさん、めぇめぇめぇ｜リアクション

羊がたくさん、めぇめぇめぇ

　◆第一章「みゃあみゃあめぇめぇ」

　篠原翠響は夢を見た。猫達が人々に語りかける夢。
　そんな夢を見て妙な夢だと思ったのだが、妙なのは夢だけではなかった。
「ん……？？」
　にゃあにゃあ。めぇめぇ。にゃあにゃあ。めぇめぇ。
　そんな声が外から聞こえてくるのだ。これが、妙なものでなくてなんだというのだろう。

　カーテンを開けてバルコニーへと向かい、下を眺めてみれば……寝子島の猫達と見知らぬ羊達が鳴き声で争っているのだ。これは確かにうるさいし、尋常ではない。
「え、ええと……うん、ひとまず落ち着かなきゃ」
　なんだか恐ろしいものを見てしまったような気もするのだが、このまま放っておくわけには行かない。翠響はすぐさま着替えを済ませて、事態収拾へと駆けつけた。

　にゃあ！　めぇ！　にゃあ！　めぇ！　と鳴き続ける猫と羊達。ぐるぐると走り回ったりする者もいれば、鳴き声だけで威嚇を続ける者もいる。島民も大混乱になりつつあるために、誰も収めようとしていなかった。
　翠響はまず羊達を眺め、それぞれ個体ごとに違いがあるかどうかを見出す。対処を取る前に、個体差がどこまであるかを調べたかったからだ。
　彼女が羊を眺める頃には翠響の周りに集まり始め、遊んでと言わんばかりにめぇと鳴く子が多くなっていた。
「……そういえば、羊達は……」
　ふと夢の中の猫達に教えられたことを思い出す。
　羊達はねむねむパワーを放出しており、それを使って全住民を眠らせようとしていること。そのパワーを止めるためには、毛を刈り取ることが必須だと。
　自分はこんなにも近づかれているのだが、眠くならないのだろうかと思ったのだが……不思議と、目は覚めていた。むしろこれから羊達と戯れるのに、寝てなどいられない！　そう思うほどに。

「とりあえず、まずはこの子達からかな。んん……キミは……なんだか食いしん坊に見えるね？」
　１匹の羊に目をつけた翠響は、食いしん坊っぽい羊だと判断してコンビニで買った缶詰を与えてみる。
　すると彼女の判断したとおりに羊はガツガツとごはんを食べ始め、満腹になったのか満足そうにごろりと横たわった。
「おお、当たった。じゃあ次はキミだけど……おっ、その毛並み凄くいいね！　どうやったらこんなにモフモフになるのかな？」
　次に目をつけた羊は、褒め殺し戦法ならばイケる！　と判断した。
　翠響の読みはまたもしっかりと当たっており、褒められた羊はデレデレに蕩けて地面に転がり始め、ねむねむパワーを放出する暇がなくなってしまった。
　どちらの羊も地面に寝転がった隙に毛刈りをして、ねむねむパワーの放出を食い止める。同時に翠響に襲いかかっていた眠気が、頭の片隅からふわりと抜けるような……そんな気がした。

　翠響の周りにいた羊達は気づけば全員揃ってダンスを踊っていた。
　最初は踊りが好きそうな羊と踊っていたのだが、気づけば他の羊達も一緒に遊びたい！　となって、翠響や他の住民達と手をつないで（？）踊っていたのだ。
　輪になって踊ることで周辺の羊をまるっと一網打尽。ダンスの音楽が終わる頃には皆ヘトヘトになっていたため、住民達が残る力を振り絞って一斉に毛刈りを行った。
「疲れたけど……これで、よかったかな？」
　小さく笑った翠響の周りは、いつの間にかねむねむパワーが無くなっていた。

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