◆第二章「おにぎり　VS　パン！」

　おにぎり島での激戦は、まだまだ続いていた。
　いつの間にか現れたおにぎりテレビ局や週刊おにーぎり等のメディアも、その戦いをメディアに残そうと必死で走り回っていた。

　そんな中で１つの戦いがまた幕を開けようとしていた。
　落合 まゆらと三折部 朝衣の２人は、お互いの視線を捉えて離れることがなかった。

　まゆらはおにぎりこそ最強と考える専門学校生。おにぎりこそが至高であり、島の名物として最高であることを示すとても明るいおにぎり島アニメーション学院１年生。
　対する朝衣は、パンの方が食べるのが楽で最高だと考えるおにぎり島の公務員。パンの方がおにぎりより手軽に食べやすいという点を知らしめたい町役場の職員。
　お互いが出会い、たたいて・かぶって・ジャンケンポンの道具を目の前に火花を散らしていた。２人共、自分が何故おにぎり派、パン派についたのかという理由を述べたくて仕方がない様子。

　まず、おにぎり派のまゆらの話を聞いてみよう……。
「おにぎりはダイエットや体型維持には最適。小麦粉でできているパンは消化が早く、すぐに満腹考えられるのは手軽でいいわね」
　うんうん、とまずはパンを褒めた。その言葉には周囲のパン派もちょっとだけ、そうだろう、と声を上げる。
　しかし、まゆらの次の言い分が彼女をおにぎり派たらしめる部分だった。
「でもね、パンは消化吸収が早いの。更には血糖値の急上昇・急降下を起こしやすく、結局はすぐに空腹を覚えやすい。もっと言えば、血糖値の急上昇は身体に脂肪を貯めやすくなる効果もあるのよ！」
　ビシィッ！！　と。これが弱点だと示すように指を朝衣に向けて、パンの弱みをずらずらと並べる。
　食べる際にはバター、マーガリン、ジャムなどのお好みのものをつけたりしなくてはならないし、更にはパンそのものにも製造時に脂肪が使われる物が多いため、少量のパンでもカロリーオーバーは目に見えて明らかなものだと。
「これに対して、おにぎりはパンよりも消化吸収が穏やかで、血糖値も緩やかに上昇するので身体への負担が軽くなるの。噛む回数は多く、唾液がよく分泌されて胃や腸で消化しやすくなってその上で満腹考えられやすくなるのよね」
　うんうん、と再び頷きながらおにぎりの良さを語るまゆら。拳を天に上げ、どれだけおにぎりが体に優しいかを力説していた。
　まゆらが大きくそこまで語った後に、朝衣が挙手をする。
「そこまで言われてしまったら、こちらも反論せざるを得ないわね」

　それでは、パン派の朝衣の意見を聞いてみよう……。
「まず、おにぎりって三角おにぎりのあの包装。破りにくいったらありゃしない。アレは好きじゃないわ。アレがうまく破れないとビニールの中に千切れた海苔が残ってしまって、それが妙にイラっと来てしまうというか……。もったいない気もするけど、かと言ってわざわざ取り出すのもなんだか貧乏くさいというか……」
　あぁ～……となんだか共感の声が周囲から聞こえる。
　確かにあの包装は考えた人はすごい。パリパリとした食感をいつまでも残せる、海苔パリパリ派閥にとっては素晴らしい発明だ。
　だがその反面、千切れた海苔の残り方が半端ない上に、その千切れた海苔を取り出すのも手間。その共感の声は派閥問わずに漏れていた。
「その点を考えたらパンの方は包装とかシンプルだし、サンドイッチとか除いたら容器の中でぐちゃぐちゃになることもない。パン派の利点ってやっぱりここだと思うの」
　包装をシンプルに出来る故に、パンはおにぎりより強いというのが朝衣の意見だ。……が、彼女はもう一つおにぎりに対する意見があるようだ。
「それに、おにぎりって作るの面倒じゃない。最初にお米を炊いて、それから熱いうちに具を詰めて握るのは面倒だし」
　絶対的なトドメと言わんばかりの一言。確かにおにぎりは米を炊くまでに時間がかかり、そこからさらに握ったりする必要があるため手間がかかるといえば、パンよりも時間はかかる。
　さらに言えば、米と水の比率に失敗すると柔らかすぎるご飯ができておにぎりに出来ないと言った事態にも発展する。そういう点を朝衣は貫いた。

　両者の言い分は揃った。
　だが、まだまだ言い足りないまゆらと朝衣は、これでもかと追加の迎撃姿勢を見せる。
「でも、お米には食物繊維やビタミン・ミネラルも含まれているのよ。そこに具や味噌汁などを加えれば、低脂肪で栄養バランスの良い食事になるわ！」
「あら、それを言ったらパンだってサンドイッチを作るのは簡単よ。中につめる食材だって好きに選んでいいし、何よりパンは手を抜いてもそれなりに美味しく食べられるんだから言うこと無しよ」
「ダイエットに最適なのはおにぎりだから、やっぱりおにぎりの方が最強よ！　もっと言えば、焼きたらこのおにぎりが最強！」
「手軽さで最適なのはパンだから、やっぱりパンの方が最強よ！　……だいたいおにぎりって、納豆おにぎりがあるじゃない……あたし、ねばねばした食べ物って苦手なんだよ……！！」
　どちらも引く様子はない。むしろ、どちらの言い分も正しくて勝負がつけられない状態だ！！

　で、あれば。どうするか？
　決まっている。本来の勝負である、たたいて・かぶって・ジャンケンポンの始まりだ！！
　周囲からおにぎりの歌やパンの歌が聞こえる中、まゆらと朝衣の戦いが始まる……！
「―――……」
「っ……」
　周囲のジャンケンポンの掛け声とともに、２人はじゃんけんをして勝敗をつけ、ピコハンとヘルメットを使って素早い攻防を繰り広げる。その回数、なんと１３回！
　しかしそれだけの回数のたたいて・かぶって・ジャンケンポンを続ければ、疲弊するのは言うまでもなく……。
「あっ……！！」
　じゃんけんに負けてヘルメットを取ろうとした朝衣の手から、するりとヘルメットが転げ落ちてしまう。その隙は、もちろんまゆらも見逃すことはなかった！
「もらったーーー！！」
　ピコハンの軽快な音が、朝衣の頭の上で鳴る。計１４回に渡るピコハンとヘルメットの攻防は、おにぎり派のまゆらが勝利をおさめることとなったのだ！
「やったぁー！」
「ううっ、負けた……」
　悔しそうに膝をつく朝衣の前に、まゆらはいい勝負だったと握手を重ねる。良き相手に巡り会えた、その事に感謝を、と……。