◆激闘！　羆vs猫王
「ここに居たのか。探したぞ怪人」
　路地裏を歩く大男の後ろで不意に声がする。その声に反応し、大男の動きが止まる。その声に振り向けば、熊皮を被った青年。邪衣 士が路地裏へと入ってくる姿が映った。

「ほお？　熊の皮を被った人間とは珍しいな。その皮は自力で剥いだのか？　だとすりゃ面白くなりそうだな」
「さあどうだかな。試してみた方が早いんじゃないか？」
「ハッ！　違いねえ！　だが怪人だの呼ばれるのはいけすかねえ。まずは名乗りあおうじゃねえか。なぁああ！！」
　怪人は鋭く長い爪をさすりながら笑みを浮かべ、片腕を掲げ吼え上げる。

「俺様の名はザ・キャット・ロード！　百獣の王よ！　この広い大地で俺に歯向かい生き延びた奴はいねえ。その王に挑む無謀者の名は。なんだ？」
「邪衣士だ。熊殺しだの呼ばれてなんだかと思っていたが。猫殺しなんて異名を持つよりはマシかもしれないな」
「カッハッハ！　俺を殺せるつもりでいるのか。おもしれえ。掛かってこいよ。先手は譲ってやるぜ？」

　どっからでも掛かってきな。と言う様に、ロードは両手を掲げ広げ挑発する。その様子に士はくすりと笑う。

「プロレスラーの矜持を感じるな。ならこっちもプロレスで対抗させてもらおう」
　士はロードへと歩み寄ると、掌を伸ばし腕を曲げ、至近距離で勢いを付け、腕を振るわせロードの胸へと逆水平チョップを放つ。更に身を回転させ、腕を振り上げ突き上げる様なエルボーをロードの喉元へと放つ。常人であればノックアウトしそうな速度と力を込めた技だが、ロードは少し仰け反りながら口元を吊り上げた。

「つう、中々やるが。それじゃあ熊は殺せても、猫は殺せねえよ！　おらぁあッ！！」
「がぁあああッ！！」
　ロードは士に詰め寄ると、鋭く長い爪を振り下ろし、士の身体を滅多切りしていく。風を切り鋭い音を鳴らしながら爪は振るい続ける。士の服はズタズタに裂け、顕になった上半身には赤い線が刻まれて行く。士は苦痛の叫びを上げながらも足を動かそうとはしない。それを見たロードはニヤリと笑う。

「ほう？　耐え切る自信があるって様子だな？　だがそれはお前だけの特権じゃねえ。俺様の方がタフだってことを分からせてやる。おら、来いよ」
　ロードが手首を回し爪を戻すと、いつでもいいぜ？　と挑発し攻撃を待つ。それなら、と士は身体を揺らし駆け出すと、ロードの首に腕を絡み付けさせ拘束し、腰を持ち上げ数百キロともなるロードの巨大な肥満体を、叫びを上げ持ち上げる。

（脂肪が厚く打撃が通らないのなら。脳か脚だ！）
「うおおおおッ！！」
「ぐおおおおおッ！！」
　地面から垂直に身体を逆さまに持ち上げられたロードは、抱えたまま倒れ込む士によって頭部から地面に叩きつけられてしまう。この技を受けたロードは、如何に身体がタフといえど脳を揺らされまともに立ち上がることが出来ず、頭を抱え転げた後、ふらふらとよろめき立ち上がる。

「っ、やってくれるじゃねえか……。だが俺は死んでねえ。今度はお前が死ぬ番だぜ！」
「受身は取れなくしたつもりなんだがな。流石に馬鹿力だ」
　拘束した首を腕の力だけでこじ開けられ、首を曲げる余地を与えてしまったようだ。この技で決めるのは難しいだろうな。と思考しながら、駆け寄るロードを待ち構える。

「逃げなかったのは褒めてやる。だが俺様の技を受けたらあの世行きだぜ！！」
「ぐあッ！！」
　士は避けることも出来たが、相手がプロレスラーとして受けて勝つと言うのなら、此方もプロレスラーとして受けて勝つ。その意志を持ち相手の技を待つ。それを悟ってか、ロードは強引に士の腰に両腕で掴み掛かり、力任せに士を回転させ背を向けさせると、ロードは身体を背から後方に倒し、ブリッジの体制を取りながら抱えた士を後頭部から地面に叩きつけた。その瞬間、士は咄嗟に顎を引き、熊皮を地面に敷きクッションにさせ、両腕を地面に叩きつけ受け身を取るも、勢いの強さと衝撃は緩和しきれず、かなりのダメージを負い、横に倒れ込む。

「カッハッハッ！　まだ生きているとは感心だ。だがこれで終わりにしてやる。カアアァァッッ！！」
「……ッ！　ここしかないッ！！」
　大技を放ち膝を震わせ立ち上がるロードは、大きく息を吸い込み肥満体の体を膨張させていく。刹那、素早く起き上がる士は低い体制のまま駆け出し跳躍し、ロードの膨らむ腹を踏み台にし更に飛び上がり、肥大化するロードの身体をすり抜け顔面に膝蹴りをめり込ませた。

「ぐおおッ！！　デタラメなことを……ッ！！　離せッ、離せェエッ！！」
　士の強烈な一撃を浴び、ロードは膨らんだ体をすかさずバウンドさせ、空中へと逃げようとする。刹那、士はロードの首を両脚でガッチリと掴み拘束させ、片脚を曲げ首四の字固めを掛ける。逃げた先の空中でも逃げ場を失ったロードは、苦しみもがき落下していく。

「羆スペシャル！」
「ガッ――ア……ァ……」
　士は空中で熊皮を羽織り、両腕を垂直に地面へと伸ばし、体を逆さまにしたままロードを締め上げ地面に着地する。着地した衝撃が締め上げたロードの首に掛かり、更にロードの体重がその衝撃に挟まれロードの首は完全に締め上げられ意識を失った。

「決まった……」
　体を降ろし士が呟くと、意識を失ったロードの身体が消えていく。神魂の影響が消え元の場所に戻ったのだろう。士は傷付いた友（熊皮）を羽織り直し、その場から去っていった。