春の嵐｜リアクション

春の嵐

【ガチャ】メガネを外して

〇お風呂の髪のまとめ方

　愛猫萌々子は、学校まで出かけていました。
　出がけに、降りそうだなとは気づいていたのですが、傘を取りに戻るのが面倒で。
（学校から寮まで、傘はなくても走れば大丈夫と思ってました……）
　しかし学校から出て間もなく、急に大粒の雨が降り出して。
　大した距離ではないのに、桜花寮に着いた時は服の中までぐっしょりと濡れていました。
（やってしまいました……）
　ぼたぼたと水滴を落としながら廊下を通って自室へ。
「ただいま帰りました……」
　そう声をかけると、同室の笛吹ぴりりがぎょっとした顔で立ち上がりました。
「ずぶぬれじゃありませんか。傘は持っていかなかったのですか？」
「ええ、ちょっとの間なので大丈夫かと思ったんですが……」
　ぴりりは大急ぎでタオルをかき集め、萌々子にかぶせました。
「ちょ、ちょっと多くないですか？」
　気持ちは嬉しいのですが、何枚も被せられて萌々子はタオルだるま状態です。
「だって、そんなに濡れて風邪ひきますよ！」
　そう言いながらぴりりはお風呂場に消え、やがて水の音が聞こえ始めました。

「確かに……」
　もう春だと思っていたけど雨は冷たくて。
（すっかり体が冷えてしまいました）
「お湯はりしておきましたから、お風呂に入ってください」
「ありがとうございます……」
　風紀委員のぴりりと同室になったときには、ののこ様親衛隊の裏の顔を見られてはいけないと必死の思いだった萌々子ですが。
　実際に暮らしてみると、ぴりりは面倒見のいい親切なルームメイトでした。
（感謝してもしきれませんね）
　そう思いながら萌々子は濡れた服を脱ぎお風呂に入ったのですが。
「……あ、やってしまいました！！」
　しばらくして、つい声を上げてしまいました。
「どうしました？！」
　その声を聞いてぴりりが浴室に飛び込んできました。
　機動力はさすが風紀委員の面目躍如です。
「ご、ごめんなさい心配おかけして……メガネを外し忘れたのに今気づいたんです」
　バスタブに浸かった萌々子は、飛び込んで来たぴりりに、ちょっとびびりながら説明しました。
「裸眼でも多少は見えるのでお風呂の時までかけていないんですが、今日はついうっかりで」
　言葉通り、さっき拭いたはずの眼鏡には石鹸の泡がついてしまっていました。
「そうでしたか……あら、その髪型」
　ぴりりから思いがけない反応が返ってきました。
「この髪型ですか？　お風呂に髪が入らないように丸くまとめているんです」
　長い髪を二つに分け、そのままではバスタブに入ってしまうのでくるんと輪にしています。
「可愛いから学校にもしていったらいいですよ」
　その言葉に、萌々子は目を丸くしました。
「……そうですか？　そういえばこれはお風呂限定の髪型でした」
　風紀委員だから、目立つような髪型は怒られるのではないか、と思っていたのですが、意外なぴりりの言葉でした。

「明日は朝からやってみましょうか」
　ちょっと嬉しいな、と萌々子は思いました。

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