おセンチエアーと小学生｜リアクション

おセンチエアーと小学生

☆こんなんで大丈夫なのかな？

「……はあ……」
　小学校からの帰り道、とぼとぼと歩きながらため息をつくのは滝原カノンだ。
　179cmの長身はどう見ても高校生か大人だが、れっきとした小学生である証拠にランドセルを背負っている。
「テスト、全然わかんなかった……」
　当たり前だ、とカノンは思う。
（おれが寝子島に来たのは２年ちょっと前だけど、それからさらに１年ぐらいは学校に行けてなかった）
　幼少期に母親から虐待され、ほぼ監禁状態だったカノンは学校にも行かせてもらえず、もちろん家で勉強もできなかった。
　こっちへ来てからも、心身が環境に慣れるまでリハビリしなくてはならなくて、やっと登校できたのは５年生から。
「大丈夫よ、外国から来て日本語を勉強してるお友達だっているから。頑張ればすぐに追いつくわよ」
　最初に登校した日、先生はそう言ってくれたけど。
　先生はクラスの子にも説明してくれて、みんな優しく教えてくれるけど。
　まだ勉強が全然追いついてなくて、今でも毎日放課後に特別授業を受けている。
「……大丈夫かなぁ、中学校」
　一日体験で行った中学校の校長先生は怖そうだった。
　それに、いつまでも特別でいられるわけじゃない。
　今も、カノンのことを知らない他のクラスの子や下級生の「大きいのにそんなことも知らないの？」と言っているような目がつらいことがある。
　
（おれだって努力してないわけじゃない。学校だけじゃなくて自分でも勉強してる）
　それでも追いついてないのが現実で。
（どうすればいいんだろう？　努力が足りないのかな？　おれ、バカなのかな？）
　そんなことないよと、カノンを引き取ってくれたおばあちゃんは優しく言ってくれるけど。
「……こんなんで大丈夫なのかな」
　ただでさえカノンは小学生には見えない体格で目立つのに。
　中学に行ったら馬鹿にされたりいじめられたりするんじゃないだろうか。
　考えれば考えるほど不安になって。
　なんだか目の前がぼやけてきた。
　目に涙が溜まってきたのだ。
「……こわいなぁ……」

　そんなことを考えていたら、いつの間にか家の前に着いていた。
（いけない、おばあちゃんが心配する）
　服の袖で涙を拭く。
「……ただいまー！」
　頑張って笑顔を作った。
（ちゃんと笑えてるよ、ね？）
　カノンは玄関を開け、家へ飛び込んで行った。

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