ののこがぷんすか怒ったら｜リアクション

ののこがぷんすか怒ったら

　1月のある雨の夜。　
　寝子島の港に、海外から一隻の船が到着した。
　一人のレインコート姿の男が港に降り立つ。
　松葉杖をついて歩いているその男は、セルゲイ・ボスコフ。

　かつて寝子島高校に留学し落神排除の為に、一年をかけて行動していたセルゲイは、クローネによる暴走に巻き込まれ失踪していた。
　負った傷はまだ癒えていない。
　神の庇護を離れた事もあってか、それとも屈辱の記憶を肉体に刻みたかったのか。
　雷鳴が轟く中、セルゲイは街の方角を睨んだ。
　ののこがいるであろう街。
　稲妻が煌々と光り、セルゲイの痩せた輪郭を浮かび上がらせた。
　冬眠から目覚めた熊のように燃やし尽くした体は骨ばっている。

　降り頻る雨の中、港に人気はなかったが。
　どうしたことか空からふわりと黒い影が降り立ち、静寂を破った。
「対外試合の課題忘れてたぜ。ここらに寝子高生の反応があったんだが……」
　降り立った若者は、背中に蝙蝠羽。腰にはとがった尻尾。
　どう見ても悪魔だった。
　似つかわしくないことに筋肉質で、ボクシンググローブにトランクスといういで立ちだったが。
「俺は魔界第一高校ボクシング部だ。高校生には見えねえがしょうがねえから、おっさんに勝負を申し込む！」
「……？」
　セルゲイは、おっさん呼ばわりされているのが自分だということに気づいた。
　状況は不明だが勝負を申し込まれているようだ。
「無視かよ？　こっちから行くぜ！」
　いちいち人を食った態度の悪魔は、ジャブを打ってきた！

　立ち去っても良かったのだが、自分のペースを乱された怒りがセルゲイのろっこん『テディ・メア』を発動させた。
　一瞬で灰色の毛に覆われた腕を、無造作に振るう。
「ギャッ！？」
　吹っ飛ばされた悪魔の顔には、熊の爪痕があった。

　セルゲイの瞳の色が、赤々と、上弦の月のように妖しく光った。

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