虹色雪の降る島で｜リアクション

虹色雪の降る島で

●虹が砕け散ったかのごとく

　マリエッタ・ラシュリエは寝子島に用事があって訪れていた。ちょうど雪が降っており、冬の知らせを改めて感じさせる。
　しかし風情だけでは収まらない光景が広がっていた。
　白い雪だけでなく、赤や青、緑や紫。およそ雪という単語から想像できない色を含んだものが降っている。

　それはあたかも空中で虹が砕け散った後のよう。
　その欠片がひらひらと舞い降りてきて、マリエッタはそれを受け止めるように手のひらを広げる。冷たい感触とともに見てみると、確かにそれは赤色や青色の結晶だった。
　目の錯覚ではなく、本当に色とりどりの雪が降っている。そう確信した。それらはある程度積もっていて、島というキャンパスを染めている。

（神秘的だけど、どういう理屈なのかしら）

　ふとそんな考えがよぎるが、その思考が深まる前に後ろから声が聞こえた。

「これピーマンみたいな味がする！」

　子供特有の声にふと振り返る。視線の先ではしかめっ面を浮かべた少年がいる。

（もしかして、味がついてるのかしら？）

　試しに赤色の雪を食べてみる。
　色合いからイチゴの味がすると思いきや、むしろトマトベースのスパイシーな味が口に広がり驚く。今度は警戒しながら黄色の雪を食べてみると、カスタードクリームの味だった。
　普段目にしている食べ物と目の前の色がカチッとはまらない。でも口直しにはなったかもしれない。それに、こういう意外性もなかなか面白い。
　それから青色の雪を食べてみると、こちらはラムネっぽい味がした。冬の雪に夏の代名詞が含まれているのは、どこか趣を感じる。

　目や舌でこの不思議な雪景色を堪能していると、ふいに背中になにかが当たった。
　痛みは特になかったが、気になって振り返ると高校生くらいの少女――野々ののこが天真爛漫な笑顔で声をかけてきた。

「あはは、ごめーん！」

　あまりに屈託なく笑うののこの様子を見て、マリエッタは怒る気が失せた。

（まあ、当たったからと言って別に怪我をするほどでもなかったし）

　そう思って、改めてののこのほうをみると学生たちが他にも集まっていた。どうやらこれから雪合戦をするらしい。
　はじめは参加するつもりなどなかったのだが、なんだかんだ巻き込まれる形で雪合戦をすることになった。

（雪合戦なんて子供の時以来ね）

　明確なルールはなく、作った雪玉を投げて当てたら勝ち。逆に当てられたら負け。参加者はみな笑顔で雪玉を作り上げては投げる。
　てのひらサイズの雪玉もあれば、両手で抱えるような雪玉もある。それらが参加者の間を行き来する。それぞれの個性を感じながらマリエッタも雪玉を投げたり、懸命に避けた。
　様々な色が行き交う貴重な雪合戦をマリエッタは楽しんだ。

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