ぞんびわーるど！｜リアクション

ぞんびわーるど！

「あれ？」
　響タルトは目を瞬かせた。体が変だ。
「これってもしかして」
　改めて自分の体を見回して見ると、所々変色したり、崩れ落ちていたりする。
「ほうほう、なるほど。自他共に認める腐女子の僕だけど、ほんとにゾンビになっちゃうとはね～」
　この世界のゾンビは退治されるわけではないらしいので、助かったが。
　ふと、名前を呼ばれた。
「ほーら、行くわよー？」
　ここは寝子島高校の廊下である。呼んでいるのはフジコ先生のようだ。どうやら、タルトは彼女(彼)のゾンビペットになっているらしい。
「はーいっ」
　タルトは元気に返事をしてフジコ先生の元へ走る。
「いーい？　お行儀よくしててね？」
　フジコ先生はタルトの頭を撫でながら、そう言い聞かせる。
　学校に連れてきてもらっているので、授業も受けられるのだ。
「それじゃ、教室に行きましょ！」
　廊下を歩き出した時である。
「んん？」
　前から歩いてくる男子生徒がゾンビペットを連れていた。
「こ、これは」
　爽やかそうなイケメンと屈強な肉体を持つ筋肉ゾンビだった。鍛え抜かれた腹筋が今にも崩れ落ちそう。
　すれ違い様、タルトはよだれをすすった。

　昼休み。
　タルトはぱちんと両手を合わせた。
「いただきます！」
「ふふ、挨拶良くできたわね。残さず食べなさい？」
　フジコ先生に頭を撫でられつつ、タルトは箸を持った。
　防腐剤の香りが漂うペット用焼き肉定食だ。これ以上腐らないように健康にも気をつけなければならない。
「んー！　防腐剤最高」
　最高のスパイスだ。
　と、校内放送が。
『富士山先生、至急職員室までお戻り下さい』
「あら？　行かなきゃ。じゃ、しっかり食べるのよ」
「うん！」
　フジコ先生はそう言って食堂を出て行った。中々混み合ってきた。
「あの、となり大丈夫ですか？　混んでいるので……」
　先程の爽やかイケメンが申し訳なさそうに立っていた。後ろには屈強なゾンビペットが。
「！　どうぞ、どうぞ」
　まさかこの距離でこのカップルを観察出来るチャンスが来るとは。
「ありがとうございます」
　と爽やかイケメン男子生徒。
「すまんな」
　そして腕がかけかけている筋肉ゾンビがイケメン男子生徒の正面に座った。
「あれ？　筋肉さんの方は食べないの？」
　男子生徒の前に置かれたのは素うどんが乗ったトレーだけ。彼は困ったように笑った。
「金欠でね。こいつのご飯を買ってあげようとしたんだけど、いいっていうから」
　筋肉ゾンビは腕を組んだ。
「人間が食べるのが普通だ。この腐りかけの体に気を遣うな。飼い主であるお前が心配だ」
「はわー……」
　タルトは目を輝かせた。素晴らしい主従関係だ。
「あ、ありがとう」
「気にするな」
　タルトは二人に対して挙手をした。
「半分こにすれば良いと思うよ！」
「そうか、半分に」
　男子生徒は今気づいたようで目を見開いた。
「そうそう、君があーんしてあげたら？」
　男子生徒は素直に頷いた。
「ほら、少しは食べないと腐っちゃうぞ」
「お、おう」
　箸で掴んだうどんを差し出す。
　筋肉ゾンビは照れ臭そうにそれを口にした。それと同時に筋肉上々の太い腕がぐちゃりと床に落ちる。
「もう少しで、お前ともお別れだろうな」
「……わかってるさ」
　完全に二人の世界である。
「ネタきたー！　この世界最高っ」
　タルトは拳を握りしめた。

このページにイラストを設定する