【寝子祭2nd】教室商店街『侭猫通り』｜リアクション

【寝子祭2nd】教室商店街『侭猫通り』

　午後になって客足も落ち着いてきたな、と稀跡は教室商店街を見渡した。
　猫写真の店と鉄道模型の展示では、店主が各々の愛を熱く語り。
　手作りアクセサリーの店では、店主が鏡を持ち客の試着を手伝っている。
　アロマキャンドルの店も、一つ二つと売れているようだ。
　そして、稀跡の『寝子島玉石展覧所』はというと。
「すみませーん、この宝石みたいな石、撮影してもいいですかー？」
「えぇ、どうぞ」
　一番人気は旅先で入手した紅茶色のシトリン。文字に重ねると二重に見える方解石は、ちびっ子達の注目の的だ。
「これ、ガラスなんですか？　まるでグミみたいですね」
「そうなんです。ガラスのかけらが海を漂ううちに、欠けたり擦れたりして丸くなるんですよ」
　女性に声をかけられ、シーグラスの説明をする。じっと熱心に瓶を傾けているので「お譲りすることもできますよ」と続けると。
「嬉しいわ。おいくらになりますの？」
「大事にして下さる方なら、お代は結構ですよ」
「そんな、申し訳ないわ」
「いえいえ、お気になさらず」
　払う貰わないの押し問答はしばらく続いたが、最終的にはシーグラスの瓶は女性に渡った。
「ふぅ」
　一息つく間もなく、お客に店のリストを配ったり、呼び込みをしたり、友人が差し入れてくれたお菓子をつまんだり。
　主催者というのは何かと忙しい。
　そんな折、稀跡のもとへみつえがやってきた。
「嘉渡州さーん！　みつえの休憩はおわりましたから、次は嘉渡州さんの番です。よかったら、店番は引き受けますな」
　事前に交代で休憩を取ろうと打ち合わせしておいたのだが、その順番が回ってきたらしい。
「いいの？　猫座さんのお店は？」
「お気遣いありがとうですな。実は、お客さんがたくさん来てくれて、完売なんですなー。ですから、心おきなく休憩をお楽しみ下さい」
「そう？　なら、お言葉に甘えて」
　客引きは瑠樹が引き受けてくれるというので二人に任せ、稀跡は財布の中身を確かめて席を立った。
　忙しくて昼食を食べ損ねてしまったし、何かガッツリ食べたい気分だったのだ。
「いらっしゃいませー！　教室商店街、侭猫通り営業中だよぉー！　カプギアバトルしてみるかねぇ？」
　瑠樹の呼び込みを背中に聞きながら歩く。
　主食になるようなものを求めて校庭に出ると、ぷぅんと香ばしい匂いが鼻をついた。
「これは……ソース！」
　稀跡が向かったのは焼きそばの屋台だ。豚肉たっぷり紅ショウガかけ放題のそこで一つ購入し、晴れた冬空の下、ベンチに座って舌鼓だ。
「はぁ……みんなも食べられたらいいのに」
　豚バラの油とソースの香りが混ざりあい、そこに紅ショウガがひと味添える、心憎い演出。口と鼻に幸せが充満する。
　はふはふと食べ終えてから、屋台の看板を目に入る。
　そこには『焼きそば店の息子が貴方に贈る本格派！』とあった。

◆

　夕方。
　寝子祭を終えて帰宅した瑠樹は、両親に打ち上げに誘われたと報告した。
「稀跡お姉さんが、美味しい焼きそば屋さんでお疲れ会をやろうって誘ってくれたんだよぉ」
　七時半には食事を終えるから、と熱心に頼むと、店のチラシ（新装開店！　今なら全品半額）を見た両親は頷き、家族一緒に行くことになった。
「みんなー！　お待たせだよぉ」
　教室商店街の皆と店で合流した瑠樹は、ジュースで乾杯してから美味しい焼きそばを口いっぱいにほおばった。
　ラズちゃんたちにも焼きそばを取り分け、楽しそうに笑っている皆を見る。
「楽しかったね、ラピちゃん、ラズちゃん」
　頭をなでると、ラズちゃんはつぶらな黒い目でじっと瑠樹を見つめたのだった。

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あとがき

担当マスター：陣杏里
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皆様こんにちは、『焼きそばはどちらかと言えば塩味派』の陣　杏里です。

文化祭かぁ……懐かしいなぁ……と思い出しつつ書かせて頂きました。
イベントを催す側として、外部の人を招くというのも新しい視点で面白かったです。
「寝子祭に来た人に楽しんで貰おう！」というあっつーい！　思いが伝わってくる
アクションを読んでいるとわたくしもワクワクしました。

参加して下さった方、お読み下さった方、どうもありがとうございました。
失礼します。

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