キャットチェス！｜リアクション

キャットチェス！

●チェスと服装

　とある日のこと。
　青山絢は学校の授業を終えて、シーサイドタウンのマンションへ帰る途中だった。

（今日のご飯どうしようかな）

　そんなことを考えていたら、どこからか猫の鳴き声が聞こえた。

「ふぎーっ！」
「にゃー！」

　どうやら喧嘩をしているらしい。
　といっても取っ組み合うわけでもなく、互いににらみ合って威嚇を続けている。いわゆる縄張り争いだろうか。猫同士の問題なのでそのまま通り過ぎようとしたとき、何かに引っ張られる感覚があった。

（これはもしかして、神魂の影響……？）

　直感的にそう思った次の瞬間には、見たことのない空間に飛ばされていた。
　床や天井は白と黒のチェック模様で、壁は無い。上を見れば、黄昏色の空がどこまでも続く。状況を飲み込めない絢のもとにテオが現れた。その口からこの事態が神魂の影響であること、猫たちの代理戦争であることなどを説明された。
　神魂が関係しているだろうというのは予想通りだった。チェスは多少やった程度で詳しくはないが、なんとかなるだろう。しかし予想外なことも起こっている。

（……なぜ、いま、私はバニースーツを着ているのか）

　絢は自分の姿を見ながら、疑問の感情でいっぱいだった。さっきまで来ていた寝子島高校の制服はどこへいったのか。
　黒のエナメルカラーを身にまとい、カフスや蝶ネクタイが艶やかに輝く。そして長い脚はストッキングで覆われ、足を見ればピンヒールを履いている。いったいどうして、ここまで完璧なバニー姿になっているのか。
　頭を抱える絢。チェスをするのになぜこんな格好をしなければならないのか。対戦相手も目のやり場がなくて困惑しているのが分かる。それとは対照的に盤上で待機する猫たち。待機といっても寝転がったり欠伸をしたりと自由奔放に過ごしている。

（とにかく、勝負を始めないと……いつまで経っても帰れないわ）

　先攻は相手側。ポーン猫に指示を出して前進を促す。しかし、猫特有の気まぐれでなかなか歩き出そうとしない。何度も指示という名のお願いを繰り返すうちに、ようやく１マス分進んだ。
　今度は絢の番。絢もポーン猫に指示を出すが、欠伸をされてしまった。しばらくすると、やれやれといった雰囲気を醸しながら２マス前進した。

（このチェス、対戦以外でも苦労しそうね……）

　絢は軽くため息を吐いた。
　それから気まぐれな猫たちに指示を出しながら、どうにか試合を進行する。とはいえ常に言った場所に進むわけではなく、指示とは逆方向へ進んだり、全く動かずにその場でごろごろするなんてこともたびたび起こる。それでも相手が出す指示から、おおよその力量が見えてくる。

（おそらく腕は互角……というか、若干、相手のほうが上）

　相手はどうやら攻守のバランスを取った戦い方が得意らしい。もっとも、猫たちが自由に動くため中途半端な布陣になっている気はする。相手の攻撃を防ぎながら、こちらも攻めるときは攻める。そのたびに猫たちが、うにゃーっと猫パンチで相手の猫を退ける。
　しかしお互いに決め手に欠けて、対局は長引く一方だった。そのせいで猫たちもだいぶダレてきている。これ以上長引くと、ますます自由な行動をとるだろう。

（そろそろここで打って出ないと……）

　精一杯のお願いを込めて、ビショップ猫とクイーン猫に指示をだす。攻防の末、相手のキング猫を包囲すると、相手の防衛を潜り抜けるようにナイト猫でチェックメイト。

（勝った……）

　なんとかギリギリの勝利。
　勝負の決着がつくと、チェスが広がる空間から見慣れた帰り道に戻っていた。

（制服も……うん、戻ってる）

　絢はその事実に安心すると、ふたたび家に向かって歩き出した。

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