梨ジュース化を阻止せよ！｜リアクション

梨ジュース化を阻止せよ！

　遠海は転がる速度を落とした巨大梨の前に飛び出た。もちろん、潰されない程度に距離を取っている。
「止まれーっ！」
　大声を張り上げ、精一杯叫ぶが当然止まらない。わかっていたことだ。遠海は背中を向けて駆け出した。すると、梨のスピードが上がる。
　どうやら、遠海のことを認識したようだ。素早く横道へ入る。梨が通るにはギリギリで、動きが鈍くなる。
　細い路地、前方の十字路で手を振っているのは豪である。あそこまで全力失踪だ。
　遠海は力の限りで豪の横を走り抜ける。
「ファイトー！」
　豪の声でろっこん、軽いぜ！　が発動し、ジャンプしようとしていた梨の転がり方が微妙に変わる。重さがなくなったのだ。
「左！　狭いからハマって動けなくなると思う！」
　遠海が言うと、
「でぇぇいっ！」
　豪が包丁の背でスイング。重さのなくなった巨大梨を十字路左方向へ吹っ飛ばした。
　その先にいた桜が棒を構え、
「えいっ」
　再び投てき。吹っ飛ばされた梨が路地にぴたりとはまり、桜の放った棒が接触し、深く突き刺さったのだった。
　重さのなくなった梨は棒の重さとそこの狭さで動けなくなってしまう。
「今だっ」
　豪が言って、遠海と桜も梨へと駆け寄る。棒で叩いたり、皮を剥いたり、梨の重さが元に戻る頃には白味がかった果実が剥き出しになっていた。生気を抜かれたように動かなくなったので、実は三人で山分けすることに。
「先生、食べるだろ？」
　ずっと背負っていた絢子先生に包丁で切り分けてやると、美味しそうに食べ始めた。
「さて、俺も」
　遠海は目を輝かせた。
「梨……！　食べ放題ね」
　早速切り分けて口へ運び、そのジューシーな甘さを味わう。
「はぁあっ、美味しいっ」
　桜は一口サイズに切り分けた梨を噛みしめた。
「美味しい……！」
　頑張った甲斐があるというものだ。
「あ、ごめん。そろそろ戻らないと。それじゃね」
「お疲れ様」
「おう、お疲れ！」
　豪と遠海に別れを告げ、桜はスポーツセンターへ戻って行った。
　いつの間にか豪の隣で梨にかじりついていた絢子先生の姿が戻っていて、
「あら……ここは？　そういえば、大きな梨が」
「夢でも見てたんじゃないですな？」
「そうなのかしら。あら、梨が」
「うまいですよね！　この梨」
　豪は絢子先生を送っていくことにした。
「じゃあ、一足先に帰るな！」
「ええ、お疲れ」
　一人になった遠海はもう少し、梨を堪能することにした。

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