喧嘩のあとで｜リアクション

喧嘩のあとで

▲　蒼　ＶＳ　紫　！！

「今年の夏は酷暑だっていうけど、毎年酷暑な気がする……」
　親が外出中のある真夏日、中学三年の仙藤蒼は自室にいました。
　今日に限って部屋のエアコンの調子が悪く、ぬるい風しか出てきません。
「とてもじゃないけどゲームする気にもなれない……」
　蒼はうんざりして蒸し風呂も同然の部屋を出ました。
（少しでも涼しそうなところを探そう……）

　蒼の姉で木天蓼大学１年の仙藤紫は、一階にいました。
　今日に限ってひどく蒸し暑く、蝉時雨もどこか元気がなさげに聞こえます。
（蝉も参ってるのかしら）
　とはいえ、不快なことこの上ありません。
　そこへ蒼がだらしない恰好──髪はぼさぼさ、ブルーのタンクトップもショートパンツもしわくちゃ、といった態で二階から降りてきました。
　几帳面な紫ですが、普段なら軽くたしなめる程度だったでしょう。
　けれどこの日に限っては妹の様子がひどく癇に障りました。
「蒼、なんなの、そのだらしない恰好は！」
　と頭ごなしに叱りつけました。
　普段は仲の良い姉妹なのですが、ただでさえ暑くてイライラしているというのに、そこへカチンとくることを言われてはさすがにムカッと来ます。
「そういうお姉ちゃんだって、人のこと言えないじゃない！」
　つっかかる蒼に、紫も不機嫌に問い返します。
「何？　私がどうしたのよ？」
「あんただって暑そうにしてるのに、なんで私だけだらしがないとか何とか言われなきゃなんないの！？　そんな格好して男誘ってんじゃねーよ！」
「……！？」
　紫の服装はタンクトップに肩が出るブラウスを重ねたもので、確かに胸元がセクシーでしたが。
（何ですって？）　
　蒼の暴言に、日ごろはマイペースな紫の顔色が変わりました。
　バチン！
　いきなり紫は蒼の頬にビンタを喰らわせました！

「なっ……！　何よ！」
　ひっぱたかれて呆然としていた蒼ですが、すぐに怒りが湧いてきました。
　完全にブチギレて蒼も殴り返します。
「このクソアマ！」
「子供のくせに生意気なのよ！」　
　４年違いで大人びて見える紫は、元気な妹を可愛がってきましたが、だからと言って何でも我慢してきたわけではありません。
　言いたいことははっきり言います。
「人が注意してあげてるのに！　まともな妹なら姉に対する敬意ってもんがあるでしょ？」
　それからは売り言葉に買い言葉、ついに殴り合い叩き合い取っ組み合いの大げんかとなってしまいました。
　ブチギレた蒼が叫びます。
「ざっけんじゃねえよ、この（以下、青少年の健全育成に重大な悪影響を及ぼす罵詈雑言につき自主規制）！」
「あんたこそ（ピー音）！！」
　互いに放送禁止用語を連発しながら大暴れ大騒ぎ。
　バシィイッ！
　ガツン！
　ボカッ！
　ビンタをくらわしたり、蹴っ飛ばしたりしますが、そのたびごとになぜかマンガみたいな変なエフェクトが飛び出していました。

「はあ、はあ……」
「フーッ……」
　しばらく本気で取っ組み合った末、二人とも疲労困憊となり床に大の字で転がってしまいました。
　髪も着衣も乱れまくり、汗にまみれて息は荒く、肩で呼吸しているさまは、どこか艶めかしくもありました。
（でもなんかスッキリしたような）
　そう思いながら蒼が紫のほうを見ると、ちょうどこちらを見た紫と目が合いました。
「ふふっ」
「ふふふ……」
　なんだかおかしくなって、どちらからともなく二人は笑いあっていました。　
　紫もまた、不思議にすっきりした気分になっていたのでした。
「……蒼、お風呂に入って、汗流そうか」
　ゆっくり身を起こしながら紫が言いました。
「……うん」
　立ち上がった蒼の胸には、もう怒りはなくなっていました。
　そうして二人は、仲良く風呂場へ向かいました。
　あんなに激しく殴ったり叩いたりしたはずなのに、蒼と紫の肌には傷一つありませんでした。
　

このページにイラストを設定する