暑中見舞い？　残暑見舞い？｜リアクション

暑中見舞い？　残暑見舞い？

☆野沢温泉から

　8月中旬。羽生碧南はバスケ部の合宿で長野県の野沢温泉にいた。
「去年は県内の強豪校との練習試合だけだったけど、今年は地元の高校と練習試合したり全体的にハードだった……」
（けど、温泉に浸かれたりして楽しかった）
　そんな合宿も、今晩泊まったら終わりだ。
「何かお土産を買おうかな」
　適当にのんびり土産物屋街をぶらついていたら、夏らしい絵葉書を見つけた。
（綺麗）
　何となくその絵葉書を手に取って眺めていると、店員さんに声をかけられた。
「これで親しい人に暑中見舞いを出したら喜ばれますよ」
　そう言われて、片思いの鷹取洋二先輩の顔が浮かんだ。
「……それじゃあ、これください」
　考える間もなく、口をついて言葉が出た。
　何枚か絵葉書を買い、しばらくお土産を見てから夕食に向かった。
「美味しい！」
　みんなと賑やかに宿の食事を堪能したあとは、温泉だ。
「さっぱりしたー」
　熱めのお湯から上がり髪を乾かして、浴衣姿で部屋に戻る。

　同室の子たちが思い思いにくつろぐ中、碧南は暑中見舞いを書くことにした。
（旅先から葉書を書くって、ゲームでもあったよね）
　そんなことを思いながら葉書を取り出す。
　綺麗で、メッセージを書くのが勿体ないくらいだ。
　家族の分は簡単に暑中見舞いを書き、最後の一枚。
　綺麗な花火の描かれた葉書。
（鷹取先輩に届けたい。でも、なんて書いたらいいの）
　悩む碧南。
（暑中見舞いでいきなり告っちゃおうか？　……でも葉書じゃ誰かに見られちゃう）
　ドキドキして湯上りの身体が熱くなる。
　すぐに返事はもらえないし、鷹取先輩になんかまどろっこしいことをしていると思われそうで……。　
（かといって無難な挨拶だとつまんないし）
　乙女ゲーでは百戦錬磨でも、リアル恋愛では素人未満だ。
（あっ、そもそも暑中見舞いじゃなくもう残暑見舞い？）
　幸い、想い悩む姿を同室の子たちは放っておいてくれた。

（結局、無難な内容にしちゃった……）
　自分のヘタレ具合が情けない。
　釈然としない想いで、碧南は葉書をポストへ入れるのだった。　
（先輩、喜んでくれるかな……）　
　せめて、心に残ってくれることを祈って。

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