なにかお困りですか？｜リアクション

なにかお困りですか？

●カレーが招くピンチ

「倹約生活で倹約三昧じゃ息がつまる。たまには贅沢しなきゃな」

　平日の夕方。北里雅樹はそう思い立ち、シーサイドタウンにあるカレー屋にやってきた。店内に入りカツカレーを注文する。ほどなくしてそれはテーブルに置かれた。食欲をそそる香りに雅樹はたまらずスプーンに手を伸ばす。さっそく食べると口の中に広がる心地よい辛さ、カツもサクサクに仕上がっており、口に運ぶ手が止まらない。満足した気持ちであっという間に完食した。
　清算を済ませようと思い立ち、ふと財布の中身を確認した。そこで問題が発生した。

（金が……ない！）

　正確には千円札が入っていない。小銭が入っているのでそちらを確認すると全部で421円。先ほど完食したカツカレーは850円。どう考えても足りない。

（事情を話して近所のATMで金を下ろそう）

　そう思い、店のマスターのほうを見る。しかしそれは不可能だと悟った。
　マスターは『副業でカレー屋をやっている格闘家』のような厳つくてごっつい男だった。正直に話したら半殺しにされそうな気配が濃厚である。

（どうすればいいんだ？）

　雅樹は食べ終えた皿を前に考える。いつまでも座っているわけにはいかない。そして最終手段、元カノの椎井莉鳥に助けを求めることにした。
　トイレへ行くふりをして彼女に店の名前と事情を簡潔に書いたメールを送信。

（確か部活だったはずだが、今の時間なら終わって帰宅しているはずだと思う。そこに賭ける！）

　トイレから出てふたたび腰掛ける。莉鳥が来るまでの時間稼ぎをしなければならない。マスターが訝しげにこちらを見ている。何か無いかと考えていると壁の張り紙が目に付いた。

「チャレンジメニュー『超激辛ギガ盛バケツカレー』！　1時間で完食したら１万円！」

　雅樹は不敵な表情を浮かべてチャレンジメニューを注文した。これで時間稼ぎができる。そう考えていた雅樹の前に出されたのは、カレーとは思えない赤色と偽りなしの大量ライスだった。

　夕方。莉鳥は陸上部の練習を終えて、シャワーを浴びて汗を流す。更衣室で制服に着替えてスマホをチェックするとメールが着ていることに気づいた。開いてみると、その内容に思わず嘆息する。

「カレー屋で食事したが、金が足りなくて支払いができないので1000円貸してくれ。必ず返す」

　カレー屋の店名も一緒に書かれている。差出人の欄には元カレの名前。念のためカレー屋を検索してみると、その店は学校からさほど離れていない場所にあるようだ。さらに調べてみると、その店ではチャレンジメニューがあって、1時間で完食したら1万円もらえる。しかし食べ残したら料金は5,000円とある。
　莉鳥は考える。元カレのことだから、時間稼ぎにチャレンジメニューを注文するだろう。そして食べきれないだろう。

「……まったく。とんだ出費になりそうだわ」

　そう思いながら学校を出る。カレー屋の近くにある郵便局に立ち寄りATMで1万円だけ下ろして、カレー屋へ急ぐ。
　店のドアを開けて中にはいると、ちょうど雅樹が必死の形相でチャレンジメニューに挑んでいた。しかし三分の一まで食べてアゴが出ている状態だった。ふと雅樹が顔をあげると莉鳥と目があった。そのとき苦しそうな表情のまま、何かを決心したようにスプーンをカレーに伸ばす。そして時間ぎりぎりでなんとか完食にこぎつけた。

（元カノの前で残すのは恥と思ったのかな……）

　意地で完食した雅樹を見ながら呆れ顔の莉鳥。その前にはお腹いっぱいでしばらく動けそうにない雅樹。しかしカレーのおいしそうな香りが莉鳥の食欲を刺激する。
　莉鳥は、雅樹を横目に普通サイズのカレーを注文した。

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