なにかお困りですか？｜リアクション

なにかお困りですか？

●動物園と迷子

　深倉理紗子は相変わらず内科医として激務の日々を送っている。そんな理紗子にとって貴重な休日がやってきた。今日は日曜日。急患や受け待ち患者の容体悪化でもない限りは丸々１日休める。
　朝起きて身だしなみを整えると朝食を食べ、掃除や洗濯などの家事をすすめる。洗濯物を干しに外へ出るとぽかぽか陽気。穏やかに吹く風も心地よい。

（こんな日はワンルームマンションに閉じこもるのも、もったいない気がする）

　理紗子はそう感じると洗濯物を手早く干し終えた。そして身支度を済ませて外へ出る。
　特に目的を持って出てきたわけではないので、適当に歩いて回る。そうしてたどり着いたのはまたたび市動物園。

（動物園なんていったい何年ぶりかな……）

　そう感じながら入園した。
　小規模で施設に年季を感じるものの、味があって島民には愛されている。そんな場所だ。鳥類エリアにはキリンやヤギ、フラミンゴやダチョウなど。サル山・水辺エリアには猿やナマケモノ、象といった動物たちが過ごしている。
　のんびりと園内を適当に見て回ると、どこかから子供が泣いている声が聞こえてきた。泣き声がするほうへ向かうと、そこには5、6歳くらいの男の子がギャン泣きしている。

（――迷子かな？）

　理紗子はそう思いながら子供に近づいていく。

「どうしたの？」

　どうにか事情を聞くと、やはりというか、迷子だった。パパとママと一緒に来て、ちょっと目を離した隙に珍しい動物のいる檻を見ていたら、そのままはぐれてしまったらしい。
　とりあえず理紗子は何とか泣き止まそうとなだめる。少し落ち着いてきたところで、まずは名前をきくとショウタと名乗った。理紗子はショウタの手をひいて迷子センターを目指して歩き出した。ショウタはぐずりながらも大人しく手を引かれている。

（迷子センターに行けば親が迷子を届け出ているだろうし、そうでなくても園内放送で親を呼び出せるだろう）

　その考えに従って歩くこと数十分。迷子センターへ到着。従業員に確認すると迷子の届出は来ていないらしい。もしかしたら園内を探し回っているのかもしれない。理紗子が事情を説明するとすぐに園内放送でショウタの名前や特徴が放送された。あとはここでショウタの両親を待つのみ。
　ショウタはもう泣き止んでいたが退屈そうにしていた。

「ショウタ君は動物好き？」

　その様子を見て理紗子が話しかける。ショウタは頷くと、指を折りながら好きな動物の名前をあげる。さらに理紗子はその動物たちのどんなところが好きなのか、どういうところが気に入っているのかなどを尋ねて話をつなげる。気づけばショウタも楽しそうに語っている。
　そうこうしていると両親がやってきた。ショウタもすぐに気づいて駆け寄る。２人は理紗子に礼をいうとショウタを連れて園内へと戻っていった。

「ありがとう！」

　去り際にショウタが手を振りながら言った。
　理紗子は優しく手を振り返した。

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