さくらの道もあたらしく｜リアクション

さくらの道もあたらしく

　新学年が始まってから数日後。
「来年は高校受験だ、１年なんてあっという間だぞ、いまから気合入れないと泣きを見るからな」
　担任の加藤先生にはそう言われたけれど、のんきな仙藤蒼にはまだそんな実感はなかった。
　ともあれ午前の授業は終わり、弁当を同級生と食べた蒼は英語準備室へ向かう。
「こんにちは、蒼さん」
　そこに小林かなみ先生がいた。
　英語担当のかなみ先生はまだ２０代。趣味は蒼と同じくゲームなのだ。
「こんにちは！　先生、私春休みに秋葉原でのゲーム大会に参戦したんです」
「えっ、いいなあ。すごく賑わってたんじゃない？　結果、どうだったの？」　
「ふふふ、実は……二位でした！」
「すごいじゃない！」
「さすがに優勝まではできなかったけど、満足できる結果でした」
「もちろんよ、百戦錬磨の大人のゲーマーたち相手に準優勝だなんて、すごい！」
　蒼はジャンルを問わず大のゲーム好きで、集中力が高くプレイ中は完全にゲームに没入してしまうやりこみ型だ。
「そうそう、先生はストリートファイトバトラーズやってみました？」
「うん、面白いけどなかなか勝てないのよねー」
「私も最初苦労しました！　あれは……」
　最新の対戦型ゲームの攻略法について盛り上がった後、先生は思い出したように言った。
「そういえば、勉強のほうはどう？　いよいよ来年は高校受験ね」
　非情な現実を指摘され、がっくりする蒼。
「そうでした。今年はあんまりゲームできないかも」
　年中ゲームに明け暮れている割には成績は意外にも中の上あたりだが、波があって油断はできない。
「ずっとゲームしていたいけど、あんまりハメ外すと成績落ちちゃうし。何だか悩ましいな」
「あんまり気落ちしないの。ゲーム大会二位の集中力があればきっと大丈夫よ、頑張って」
「はい……」
　キーンコーンカーンコーン♪
　先生になだめられ気を取り直したところにチャイムが鳴った。
「あっ、先生、それじゃまた！」
　蒼は大慌てで３－３の教室へダッシュしていった。

　放課後。
「勉強のやる気を溜めるには、まずはゲームでスッキリしなくちゃね」
　ついゲームセンターに寄り道してしまう蒼である。
　制服のままなので見回りの先生がいないか周囲をよく確認した後、お気に入りの格闘ゲームの台へ向かう。
　すると、寝子高の制服を着た男子がいた。
　視線が合う。無意識に相手の雰囲気からゲーマーとしての腕を値踏みしつつ、人柄を予測する。
　とりあえず普通そうだ。そして明らかにこちらを格下と見てなめてかかっている、と蒼は瞬時に判断した。
「そこのお嬢さん、対戦どう？」
　望む所だった。蒼は不敵に笑う。　
「いいわよ」

　勝負はあっさりついた。
「つ、強ええ……」
　蒼の圧勝だった。
　ゲーム大会２位の腕は伊達ではない。
　いつの間にか集まっていたギャラリーが口笛を吹き、拍手する。
　負けた男子高校生はうめき声を上げ退散していった。
「寝子高もゲームで推薦入試とかあればいいのにな」
　そんなつぶやきを漏らしてしまう蒼であった。

　

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