【期末テスト】赤点？満点？？春風、四日間の死線＜物語編＞｜リアクション

【期末テスト】赤点？満点？？春風、四日間の死線＜物語編＞

●Mikeは猫じゃない

　桜花寮で暮らす夢呼・ステイシーの実家は、シーサイドタウンにある和洋菓子店である。
　父は英国人、母は日本人。ラブラブでロマンティックな会話を交わす両親に育てられた夢呼は、ロマンティック過剰摂取からくるアレルギーなのか、少女漫画的なお約束の胸キュンロマンチックな空気が大の苦手。
　なのに、ロマンチック大好きな同い年の従姉がいる。
　夢呼は、その従姉、本居陽毬とともに、勉強のために帰省していた。

「あーやばーい！　暗記科目は一夜漬けだけど、英語はやばーい！　このままいくと赤点だなんてことにもなりかねない……っ！　そんな成績、パパママには見せられないよ……！」
　頭を抱える陽毬に、夢呼は冷たい視線を送る。
「……嫌だぞ従姉が赤点で留年とか」
「私だってイヤだよ。だからメコちゃんちに勉強しにきたんだもん」
　陽毬は夢呼のことをメコちゃんと呼ぶ。
「寮で一人で勉強してると、ついついだらけちゃうんだよねー。ここなら何かあればメコちゃんに教えてもらえるし、英語については本場の英語の国の人の伯父さんもいるし、テスト勉強するのにはばっちりだよね！」
　なにやら安心しきった顔をしている陽毬だが、夢呼の方はふぅとため息。
　自分の方は、授業は真面目に受けてるし、予習復習もちゃんとしてる。よほどのことがなければ大丈夫だろう。だが、陽毬の英語はひどい。母からは勉強をちゃんと見てやれと言われるし、もしも赤点なんてことになったら、自分の方が母に叱られるだろう。
「不条理だ」
「ん？　何か言った？」
「いや……愚痴を言っていてもはじまらないな。前途多難だが頑張るぞ」
「よくわかんないけど、うん！」
　そんなわけで、居間で二人で教科書とノート広げて勉強頑張りはじめたのだ……が。

「えーと……」
　開始１分で手を止める陽毬。
「……。問題集見てみたけどさっぱりわからん。猫がなんだって？」
「……ん？　猫？　そんな問題あったか？」
「ん？　猫じゃないの？　だってＭｉｋｅ（ミケ）って書いてあるけど」
　ほら見てよ、と差し出された問題を見て、夢呼は呆れて陽毬を見返した。
「……いや、これ人の名前だろ」
「えっこれ人の名前なの？　ミケだなんて可愛い名前だねぇ」
「いやいや、ミケじゃなくてマイクだから！　ごく一般的な男性名だから！」
　えー、と陽毬はほっぺたを膨らませる。
「私思うんだけどね？　日本人なんだから、日本語だけ喋れればいいよね！　ね！」
「瞳をキラキラさせて自己肯定してる場合かよ」
　陽毬がどう思おうとも、学生生活にはテストが存在し、赤点になれば進級できないという事実は変わらないのである。
（ああ……１問教えるだけでこの労力……！　なんていうか……前途多難だよなぁ……）
　母から受けた指令の重さに、早くも徒労感を覚える夢呼であるが、考えていても仕方がないと自分は自分の勉強をすることにする。すると陽毬は早くも――１問しか解いていないのだから早すぎるのだが！――休憩すると言い出した。
「メコちゃんそこのミカンとってー」
　無言でミカンを籠ごと手渡す。陽毬はひとつ剥いては口にほおり、また一つ剥いては口に入れ、
「あーおいしーい」
　と和んだ様子である。
（大丈夫か陽毬は？）
　――大丈夫じゃなかった。
「うーん、みかん食べてお腹が満たされたら、なんだか眠くなっちゃったなぁ」
「え」
「ちょっと仮眠するから、３０分で起こしてね！」
「は？」
　夢呼が聞き返す間に、こたつに横たわり、ぐーと寝息を立てはじめる陽毬。
「って、おい！？　何もしてないのに寝るのかよ！？」
　夢呼は陽毬の肩を叩くが、陽毬は口元をむにゃむにゃさせるばかりである。
　なんてことだ。
『どうしてちゃんと起こしてあげなかったの』
　そう言って母は夢呼を責めるだろう。
　俺はこの自由人のせいで叱られるのか！　それは堪らないと両手で強く肩を揺さぶる。
「お前今まで仮眠とかできた事ないじゃないか！　いつも３時間は爆睡するだろうが！」
　陽毬の頭はがくがく揺れるが、それだけだ。その目がぱっちり開くことはなく、なんなら口の端からよだれが垂れる始末である。１回寝ちゃうと意地でも起きない。それが陽毬という少女である。そのことを夢呼はよく知っていたが、それでも最後のあがきで耳元に大声を注ぎ込んだ。
「ああっ、もう！　起きろコラー！！！」
　
　だが、夢呼の必死の叫びもむなしく。
　陽毬はそこから３時間、ぐっすり爆睡したのであった……マル。

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