【卒業生を送る会】寝子晴れっ、跳躍っ、新たな一歩でにゃーっ！｜リアクション

【卒業生を送る会】寝子晴れっ、跳躍っ、新たな一歩でにゃーっ！

●お片付けタイム

　保護者や街の人たち、三年生が退出したのち、一二年生たちは実行委員を中心に後片付けに追われていた。
　天之川麗仁は粛々とパイプ椅子を片付けてゆく。
「天之川君～！　おつかれさまな……ＮＯＯＯＯ！」
　両手に二つずつパイプ椅子を引きずってきた橘明里が、麗仁の名を呼んだところで「ぴぎゃーっ」とコケた。パイプ椅子がガシャガシャンと派手な音を立てたので、麗仁は慌てて駆け寄り、椅子を三つ持ってやる。
「橘さんお疲れさま。椅子は、ひとつずつ持ってきたらいいよ」
「ありがとう。てんしぱわーをもってしても四つは多かったみたいなの。天之川君は三つ大丈夫ですなの？」
「こう見えて、身体は鍛えているんだよ？　それに――」
　と麗仁は優雅に微笑み、通りかかった新田亮を呼び止める。
「なんだ？」
「手伝ってよ」
「おう、力仕事なら任せろ！」
　小柄ながら筋肉質な肉体を持つ亮は、ぐっと力こぶを作って見せる。
　明里はそんな彼らに甘えて「じゃあお願いするのです」と笑った。

　七夜あおいと共に、長机を運んでいた八神修が「大丈夫か？」と明里たちに声を掛けた。
「大丈夫ですなの！」
　明里が答えたそのとき、突然ワルツが流れ始めた。
　念のため用意しておいたウィンナ・ワルツのＣＤを、誰かが誤って掛けたらしい。
「美しき青きドナウ――ヨハン・シュトラウス二世か」
「修君ならダンスも得意そうだね」
「いや、それが……」
　カメラを回すのに忙しくて踊り損ねたのだ、と修は言った。
（あおいと踊りたかったんだけどね。撮ってたら自分が踊る暇なんてないさ……）
　口惜しく思いながら聞いてみる。
「あおいは？」
「けっこう踊ったよ？　ののこちゃんとか同級生とかいろいろ踊ったなー。ステップもちょっとは覚えたかも」
　そう言ってあおいは、机を運びながら三拍子のステップを踏んで見せる。
「素敵なステップだ。そのまま続けて？」
　修も合わせてステップを踏む。
　美しき青きドナウの流れに身を任せるかのように、二人は机を持ったまま三拍子のリズムで回転した。
「こんなダンスも悪くない」
「ふふっ。そうだね」
　曲が終わるのに合わせて、膝を折ってご挨拶。なんだか愉快な気分になる。
　あおいもそうなのだろう。心なしか笑顔が眩しい。修と視線が合うと、あおいは、ペロ、と舌を出した。
「つい踊っちゃったね。さ、机を片付けちゃおう？」

◇

　軽音楽部でもバイトでも重い物を運ぶのに慣れているから、と楽器の片付けなどを積極的に手伝っていた呉井陽太は、スネアドラムを抱えて外に出て、夜気の冷たさに息を呑んだ。
「おー、外はすっかり真っ暗だなぁ」
　もうすぐ三月になるのかぁ……とひとりごちる。
「早いなぁ、月日が経つのは。四月になったら、三年生になっちゃうんだねぃ」
　肩を叩かれる。大きなごみ袋を手にした志波武道だ。捨てに行くところらしい。
「なーに黄昏れてんの？」
「武道君は感じない？　まだ二年生でいたいような三年生になりたいような……何だろうねぃ、この気持ち」
「わかるよ。たぶん……」
「……たぶん。今がすごく楽しいからそー思っちゃうのかもだ」
　そうだね、と頷き、武道は一番星に向かって伸びをする。
「これで本当に〆、かぁ……でも……ちょっとばかり楽しみあってもいいよな？」
「なに、武道君？　なんか企んでる顔してない？」
「人聞き悪いな陽太くん。企みますとも頑張ったみんなのためならばっ☆　あっ、それ運んだらだいたい終わりだから。解散の前に体育館に集合ね！」

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